いつも通りの放課後。
帰ろうかどうか少し迷って、どうせ時間もあるし図書館に行こうと荷物を持った。
岬ちゃんは平日はずっとバイト入れてるからだいたいいつもこんな感じ。
寂しいとか、少しは思うけどあんまり仲良くない子と居て気を遣うよりはいいかなって。
こんなんだから友達少ないんだろうけど、まぁいっか仕方ない、っていつからか諦めモード。
図書館で司書のお兄さんに新しく入った本をおすすめしてもらう。
もうすぐ映画化するんだよとかドラマになるんだよとか、そんな情報を聞いては凄いなって感心。
そういう情報に疎い私には何もかもが新しい情報だ。
「そうだむむむさん、塚原くんと話したりする?」
「はい、時々ですけど」
「もし会ったらでいいんだけど、返却期限過ぎてる本返すように言っておいてくれないかな」
もう一週間過ぎてるから、と。
塚原くんが返し忘れるとか何か意外、なんて思いながら私も一冊だけ本を借りた。
ついでに岬ちゃんが借りてた本も、と言ってたけどそれに至ってはもう1ヶ月も過ぎてるとか。
そういえば「返さなきゃ」って言いながらロッカーに放り込んでたっけ、と思い出して教室に向かった。
せっかくだから塚原くんが居るか確認して、本も返しといてあげようなんて思いながら。
廊下を歩いていると角の向こうから賑やかな声がして、すぐにあの5人だってわかった。
理由は何と無くだけど。
角を曲がるとやっぱりいた。
橘くんが駆け寄ってきてくれる。
「はい」
「…は、い?何、これ……」
渡されたのは雑に切られた一枚の紙で、郵便番号を書くような枠が7つ並んでいた。
裏を向けて思わず笑ってしまう。
賑やかなそれには沢山の落書きがあって、個性的っていうか何て言うか、はっきり言っちゃえば面白いことになってる。
「…要、笑われてるよ」
「うるせぇよ」
え、え?なんて思ってると橘くんが教えてくれる。
少女漫画のような絵は松岡くん、このなんかリアルで無表情な顔は塚原くんが書いたんだって。
追い付いた皆はいつものトーンで会話を進めていく。
「あ、そうだ、むむむさんはどこか行きたい国とか場所とかありますか?」
「国?んー……なんだろ、アメリカとかペルーとか、かなぁ」
「どうしてですか?」
「自由の女神とかナスカの地上絵とか、世界遺産って一回くらい見てみたいかなぁ、って……」
パチパチ、二度三度瞬きをして私を見る皆に、変なこと言ったかな?なんてちょっと焦る。
いいですねぇって笑ってくれる松岡くんと、さすがですって祐希くんと悠太くん。
「世界遺産!いいね!行く?一緒に行っちゃう?」
「おいまてチビザル、世界遺産じゃ腹は膨れねぇとか言ってただろうが!」
「そんなアホっぽい事言うの要しかいないよ」
「アホかお前らだろサル!祐希!」
橘くん祐希くんと塚原くんの鬼ごっこ。
いつもの事だからって気にしてない二人に、ハガキを返そうとすると悠太くんが「プレゼントしますよ」って。
困った私を見た悠太くんが更に「いらなかったら捨てていいよ」って、ゴミを渡された気分になったけど何だか可愛く見えないこともない紙を借りてきた本に挟んだ。
塚原くんへの伝言を頼んで、せっかくだから一緒に帰りましょうと誘ってくれた松岡くん達と並んで廊下を歩いた。
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