チャンスは狙ってみたんだけど、たぶん悠太くんには、渡せそうにない。
松岡くんと橘くんにも何とか渡せたんだけど(橘くんが松岡くんを連れて貰いに来てくれたのが正解)、悠太くんと祐希くんは捕まらないまま気付けばもう放課後。
廊下の窓からは、帰っていく5人の後ろ姿が見えている。



「…むむむさんどうしたの?」

「……や、別に…」



東先生が声を掛けてくれる。
なんでもないですって言うと、東先生は私の見ていたものを確かめるみたいに窓から外を覗き見た。



「渡せなかったの?」

「…………えっと」

「……はは、そっか」



冗談ぽく言ってみたつもりだったのか、私の反応に一瞬固まって笑いだした。
でもそれも止めて「ごめんそんなつもりじゃ!」って今度は申し訳無さそうな顔を浮かべた。(私なにも言ってないんだけどな…)

東先生は何もしゃべらないし、そのくせにどこかに行こうともしない。
先生と並んで窓から外を眺めるっていう変な空気が、もうだいたい5分くらい続いてる。



「本命チョコ?」

「…渡せなかったんですけど」



窓から見える場所には、もう5人はいなくなっていた。
ほんとにダメだなぁって。
自分がヘタレなのも小心者なのも知ってるけど、今日はほんとにだめだった。

高橋さんと悠太くんを見てから、完全に気持ちが引けた。
完全に怯んた。
なんでもないって分かってるし、あのチョコレートがクラスの女子からっていうのだってちゃんと、頭では理解してるのに。



「…東先生、一緒に食べませんか?」

「……え、でもこれ…」

「手作りだから早く食べちゃわないといけないんです」



紙袋から我ながら綺麗にラッピングされた袋を取り出す。
それを差し出すと、困ったような複雑な表情で一応受け取ってくれた。



「…よかったの?」

「もうどうしようもないですから」

「だけどもしかしたら、相手の子も待ってたかもしれないし…」

「そんなわけないですよ」

「そんな事ないよ。そういう気持ちって意外と向き合ってたりするものだと思うし」

「…先生の経験ですか?」



あ、ははは…って動揺したような声を上げながら苦笑いを浮かべた。
それは多分先生が優しくて格好いいからだと思うけど、それを言うとまた困らせちゃいそうだから呑み込む。



「明日でも遅くないと思うよ」

「……」

「これありがとう」



ぽんぽんっと、先生の手が優しく私の頭に乗る。
…まだ間に合う、のかな。
頭に残った先生の手の感触を辿りながら、どうしようっていう気持ちがぐるぐる頭を巡る。


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