「むーって塚原と付き合ってんの?」
「……へ?」
放課後、先生への用事を済ませて教室に戻ると、待ち構えていたような岬ちゃんにそう言われた。
勿論そんな事あるわけなくて。
事情を聞くと、どうやら昨日私と塚原くんが同じ傘で帰っていたのを誰かに見られていたらしい。
しかも“泣いてる私の涙を拭って塚原くんとキスしてた”っていうおまけの情報つきで。
「なんか朝から見られてるような気がしてたんだよ…」
「私もビックリしたんだからね、ほんとに。ちょっと笑っちゃったよ」
岬ちゃんに本当のことを伝えると、まぁそんなとこだろうなとは思ってた、って笑ってくれてちょっと安心した。
わらわら寄ってきたクラスの子たちにも岬ちゃんがきちんと説明してくれて、とりあえず誤解は解けた、と思う。
…ってたんだけど。
「ねぇ塚原くんと付き合ってるって本当?」
「すごいラブラブだったって聞いたんだけど!」
「いつから付き合ってんの?」
「どこまでいったの?」
とか、次の日も朝からそんな質問責めに合ってる。
違うよ付き合ってないよ誤解だよって皆に説明して、なんだーとか残念ーとか言われるのはちょっと腑に落ちないけど。
「あー…むむむいる?」
教室に来たのは塚原くんで、気まずそうに教室の外から私を呼んだ。
ヒューヒューとか聞こえてくる声に「だから付き合ってねぇっつーの!!」と叫ぶみたいに吐き捨てて、私は塚原くんのところに行く。
「ほんっとアホばっかだな…」
「ごめんね塚原くん…」
「いや謝んのオレの方だから。なんつーか…ごめん……何も考えてなかった…」
ほんとに申し訳なさそうに、少し視線を逸らしながら謝ってくれた。
謝るとか謝られるとか、なんかちょっと違う気がした。
するとまたら周りから冷やかしの声が聞こえてきて、塚原くんがそれに呆れたような怒ったような声を上げる。
…ああいっぱい怒鳴らせちゃってるんだろうなぁって、簡単に想像できて申し訳なくなった。
東先生に呼ばれた塚原くんはそっちに行って、ぽつんと残されると何だか気持ちが沈んでいく。
「要が気になる?」
「………」
「……ごめん冗談です」
顔を上げると祐希くんがいて、自分の発言を反省していた。
大丈夫って笑って返すと、祐希くんは「あの」と言葉を続けた。
「気にする事ないと思うよ。こういう噂は冬休みの間にみんな忘れるだろうし……って春が言ってました」
「…うん、ありがとう」
気を遣ってくれたのかな。
優しさが嬉しくて、もう一回、今度はちゃんと笑って返す。
「っていうかほんとに、要は止めといたほうがいいよ。眼鏡だし頭堅いしすぐ怒るし、それに要にはかおり先生とお母さんもいるし」
「…うん……っはは…」
「いや笑い事じゃなくてですね…」
なんか、面白くて。
友達のこと、こんなふうに言えちゃうんだなぁって。
ほんとに仲がいいからかもしれないけど、それが余計に微笑ましく思えてきちゃって。
「…むむむさん」
「……は、い?」
「………アドレス聞いてもいいですか」
びっくりしたけど頷くと、祐希くんはポケットから携帯を出してきてその場で赤外線通信。
再びポケットにしまわれた携帯には、まだあのシールが貼ってあった。
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