意外と本格的な作りのお化け屋敷。
真っ暗だけど、所々に見えるお墓とか提灯おばけとかの小道具が何だか余計に不気味。



「う〜…暗くてよく見えないよ〜」

「はいはいちゃんと歩いて大丈夫だから」



悠太くんと松岡くんと茉咲ちゃんが前を歩いてくれて、私と岬ちゃんはその後ろを歩く。
松岡くんも相当怖いようで、悠太くんの背中を掴んだまま弱々しい声を上げている。
私もガッチリと岬ちゃんの左腕にしがみ付いてる。
だって怖いんだよ、ほんとに。



「あ。悠太だ」



後ろからそんな声が聞こえてゆっくりと振り向くと、そこには暗やみに浮かぶ生首がひとつ、無表情で立っていた。
ビクッとなり“ひっ”て女の子らしくない声を上げて岬ちゃんの腕にしがみつく力が強くなる。



「わ゙ーっっ!!祐希くんの生首ーっっ!!!」

「……ぅわ、っ…」



無表情のまま近付いてくる祐希くんに気付き、驚いた松岡くんが私たちにぶつかってくる。
ドンッと押された事でしがみつく腕から力が抜け、そのままおされて誰かにぶつかる。
咄嗟に「ごめんなさい!」と出た言葉でその人に振り返る。



「花子さんだぞーっっ!!」

「わ゙ーっっ花子さんだーっっ!!!」

「おいだめだってこっち逆そ…」

「わ゙ーっっ要くんだーっっ!!!」



思った以上に怖がり動き回る松岡くんに押されて、私もフラフラしながら皆にぶつかる。
暗いからもう何が何だかわかんなくて、後ろから肩に乗せられた手にまた盛大に肩が跳ね声が洩れる。



「びびり過ぎだろ」

「…っ……か、要くん…?」

「それから春…今のリアクションの意味をきかせてもらおうか?」



私の肩に手を乗せたまま、私を挟んで松岡くんを睨み付ける塚原くん。
松岡くんは困ったようなしどろもどろな声を上げる。



「なんでちゃんちゃんこ着てないの?」

「こっちのがより闇と一体化できるかなって」

「おかげでむむむさんぼろぼろだよ」

「それは俺のせいではなく春のせいだと思うんですが…」

「お前らここで止まんなうしろつっかえっから」



肩に乗っていた手が私の身体を押した。
後ろから声が聞こえて、塚原くんはきっとそれに気付いたんだろう。
ゆっくりまえに進むと、何故かおばけ役だった祐希くんと橘くんも一緒にくることに。(い、いいのかなおばけ役なのに…)
…そういえば岬ちゃんがさっきから見当たらないなって気付く。



「先に出てったよ“つまんない全然怖くないんだけど”って言いながら」

「…こ…怖くなかったんだ…」

「俺としたことが…」

「……いや多分普通なら怖いとおもうよ、だってほら」



ギャーッ!とかワーッ!とか盛大な叫び声を上げながら歩いている茉咲ちゃんを指しながら悠太くんが言う。
祐希くんは何だか不服そうだけど、私だって怖い。
倒れてくるマネキンとか時々驚かせてくる橘くんとか、いちいちビクッてなる。



「……ひゃ、っ!?」

「あ」



いきなり掴まれた足首。
その手の感触にびっくりして身体のバランスが崩れ、後ろに倒れそうになる。
そんな私の右腕をしっかり掴んでくれたのは隣にいた悠太くんで、おかげで倒れずにすんだけどドジなとこ見られたなって恥ずかしくなる。



「危ないよ」

「ご、ごめんっ…!」

「…謝らなくていいけど」



掴まれてた腕がジンジンと熱くなるみたいな気がした。
多分私の顔も赤いんだと思う。
ここが暗闇で良かったって、お化け屋敷に入ってから初めておもった。



「あ、あれ出口かな」

「う〜…早く明るい所に出たいよ〜」



やっと明かりが見える。
外に出ると電気がちょっと眩しくて、思わず目を細めた。



「何分掛かってんのよこんなちっちゃい教室に。それに凄い叫び声聞こえてきたけど」

「それは茉咲ちゃんだと思う」

「…なんで弟と金髪も出てきてるの」



…確かに、中からお化けも一緒に出て来てるなんてちょっとオカシイかもしれない。
苦笑いで何でだろうねって言うと、岬ちゃんも同じように苦笑いを浮かべた。



「…何してんのあんたたち」

「え?」

「記念に」

「何の記念?」

「暇なら撮ってくださいよ」

「…いや別にいいけどさ」



祐希くんが岬ちゃんに携帯を渡し、ぴったり寄り添ってピースサイン。
やっぱり無表情だけど、2人が並ぶとほんとに同じ顔で、しかも綺麗な顔だから惚れ惚れしちゃうっていうか。
ほんとに仲いいんだなって、知ってたけど改めて思った。
その後ぼろぼろにしてごめんねって謝ってくれて(多分お化け屋敷の中での事だと思うけど)、お詫びにって塚原くんの寝顔の写真を見せてくれた。


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