浅羽くんと高橋さんが付き合い始めたっていうそれが、もしかしたら嘘なんじゃないかな、なんてそんな淡い期待は今朝早々に打ち砕かれた。
一緒に廊下歩いてたり、教室で一緒にいたり、前まで見なかった光景がごく当たり前のようにそこにあったから。
それを見るたびに落ち込んでる私に、我ながら面倒臭いなぁと思った。



「ほんとに付き合ってんだ」

「そりゃ…本当だろうね」

「あの高橋がねぇ、よく浅羽捕まえたもんだわ」

「…高橋さんに失礼だよ」



教室の端っこで、そんな会話。
休み時間になるたびに一緒にいて、やっぱりまた、羨ましくて。
見ていたくなくて、トイレ行ってくるねなんて嘘ついてその場を離れたりもしたけど、虚しい気持ちは消えるわけなかった。

別にそこまで好きなわけじゃなかったし、別に、付き合いたいとか思ってたわけじゃなかったし。

…なんて、言い聞かせてもダメなもんはダメだった。
ここがトイレの個室でよかった。
何でかわからないけど流れてくる涙を、右腕で必死で押さえながら時間が過ぎるのを待つしかできなかったから。

何でこんなに好きなんだろう。
いつの間にこんなにも、好きになってたんだろう。
話したこともあんまりないし、ただ見てただけなのに。



「お疲れ様でした」

「…お、つかれ?」

「泣いてたんでしょー」

「……え、なんっ、」

「何でって、目ぇ赤いし腫れてるしバレバレだからね」



あはは、と笑う岬ちゃんは全て分かってくれているかのようで。



「浅羽モテるからね」



ぽんぽん、と私の頭を撫でる。
ああなんだ、そうなんだ分かってたんだ、多分ずっと分かってくれてたんだろうな。
そう思うとまた、目からどんどん水滴が流れ落ちてた。



「え、え、あの、ど、どうしたんですか!?」



忘れてたここ廊下だよ、いくら隅だからって言っても廊下だよ。
通りかかった松岡くんがワタワタと心配してくれてるけど、岬ちゃんはお腹痛いだけだから大丈夫だよーなんていい加減な返答。(松岡くん信じてるけどお腹痛いだけじゃ泣かないからね私!)



「ま、大丈夫だよ心配すんな」

「ええ…いいんですか…!」

「いいって、それより松岡、向こうで友達待ってるよほら、」



無理しちゃだめですよ、って最後まで優しくしてくれる松岡くんにまた涙が溢れてきた。

勝手に恋して勝手に失恋して、泣いちゃうくらい大好きだったって気付いて。
こんなの初めてだった。
だからきっと、好きな人に好きな人がいることがこんなにも悲しいんだろうなって思った。


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