夏と言えば夏祭り。
思った通り、何のときめきもなく(七夕の時は微妙にときめいたけど!)平凡に過ぎていくであろうこの夏の最後のお祭り。
お母さんにやってもらって、浴衣もバッチリ着た。
早めに待ち合わせ場所に行ったつもりだったけど、そこには同じく綺麗に浴衣を纏った岬ちゃんがいた。
身長が高いし綺麗だから何を着ても似合う、それがすごく羨ましく思う。



「わ、もう凄い人だ」



お祭りは既に賑やか。
それでも食べる気満々で来た私と岬ちゃんは片っ端から屋台を回ろうと決めてたから、人集りにもめげずに回っていく。
やっぱり綺麗な彼女には、通り過ぎる人たちの視線が向くのが分かる。
一緒に歩くのが、ほんのちょっと恥ずかしいと思った。(子供っぽいからさ、)

いつの間にか屋台の周りは人があふれ始めてて、油断したらはぐれてしまいそうだった。
離れてしまいそうになり岬ちゃんの浴衣の裾を掴むけど人の流れに逆らうのは、チビの私には難しくて。
どん、と誰かにぶつかる。



「ご、ごめんなさ、」

「…あ」

「…あ、浅羽くん、?」



ばっと顔を上げると、紛れもなくそこにいたのは浅羽くん兄弟だった。
そこには岬ちゃんもいて、どっか行っちゃったかと思ったよ、って私の腕をぎゅっと握ってくれた。



「そういえば茉咲見なかった?」

「茉咲?誰それ」

「1個下の、こんな…」

「これくらいのこんな髪型で…」



身振り手振りで茉咲と言う子の説明をしてくれる。(表情は全然変わらないけど)
あ、いた、と視線が向いた先には一人の小さな女の子が立ってた。
見たことあるなぁ、と、すぐにピンと来たあの顔。

あの子、茉咲っていうんだ。
茉咲、って呼ばれてるんだ。



「小さいからすぐどこ行ったかわかんなくなる」

「気を付けなよ」



と。
浅羽くん(お兄ちゃん)の右手が、軽く、茉咲ちゃん、の、頭に触れた。



「今から花火するんだけど」

「一緒にやる?」



ぴったりくっついた浅羽兄弟が、茉咲ちゃんから私たちに視線を移した。
隣を見ると岬ちゃんは万更でもなさそうにどうする?なんて聞いてくるから私も頷く。
空き地に着くと、すぐにはしゃぎ始める橘くんと巻き込まれる塚原くん。(…あ、いつの間にか立場逆転)
松岡くんと茉咲ちゃんと知らない綺麗なお姉さんは落ち着いて線香花火。



「はい」

「どれがい?」



浅羽くん2人は相変わらずぴったりとくっついたまま、私たちに花火を渡してくれた。
ありがとうっていうと、俺らが買ったわけじゃないけどどう致しましてと返してくれた。



「浅羽くんって、」

「浅羽…」

「浅羽…」



2人は自分を、そしてお互いを指差して顔を見合わせてそう呟く。
確かにどっちも浅羽くんで、2人が別々にいるときはいいけど、今みたいにどっちもいると分かりにくいっていうのはある。
私が困っていると隣の彼女が口を開く。



「悠太と祐希だっけ」

「うん」

「何て呼ばれてんの?」

「普通に、悠太と祐希って」

「そうなんだ。ま、浅羽は浅羽だし、そういえば初めまして弟くん、よろしく」



弟くん…と無表情で小さく呟いた彼はどーも、と軽い挨拶。
私とも目が合って、どうしていいか分からなかったから取り敢えず笑っておいたら、またどーも、と軽いご挨拶。



「浅羽くん、橘くんが…」

「だから、浅羽」



交互に指差し。
そうだ、どっちも浅羽くん、だ。
相変わらず困った私の様子を見た2人は顔を見合わせて、悠太、祐希、と名前を呟く。

…いいの、か、な?
どんどん高鳴る心臓。
いい、ん、だ、よね、



「祐希くん、と、悠太くん」



よろしく、と差し出された右手と左手をおそるおそる掴むと、どっちもの手をゆるく握られた。
大きくて温かかったあの手とあのドキドキを、私はきっとずっと、忘れる事はできないだろうなぁと思った。


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