部活のない夕方、今日は部室に行かずにフラフラと帰り道を歩く。時間があるからいつもとちょっとだけ違う道を歩いてみる。
裏路地の傍らには、普段は誰も居ないような小さな小さな公園がある。遊具なんてほとんどなくて、錆びれたブランコが一つと青い古びたベンチが一つあるだけ。
あんまりここに来た事はないが、過去に2度ほど授業をサボって学校を抜け出した時にここに来たから知っている。陽当たりがよくて日光浴にはピッタリなのだ。
足を進めていくとそこにはよく見る真っ白の制服を纏った人の姿が見える。陽のせいでよく見えないが、珍しいなぁと思いながら眺めていると見慣れた横顔に気付く。
―――跡部だ。
何してるんだろうこんなところで、と思いながら後ろからばれないようにゆっくり近付いていく。ベンチの上で組まれた足下には数匹の猫がいるらしい。ニャー、という小さな鳴き声が幾つか聞こえてくる。もっとも、跡部は余り気にしていないようだが。
「あーとべ、」
更に近付き、その後ろ姿に声をかけると猫たちは走り去り、跡部はゆっくり振り返る。眼鏡姿に手には本(しかもきっと洋書だ)、こんな古びたベンチなのにサマになるなんて跡部ってほんと不思議。
「読書?」
「あァ?…まぁンなもんだ」
へぇ、ってとくに興味も無かった私がそう言葉を返すと小さく溜め息を吐いた跡部は自分の隣に置いてあった鞄を退けた。座れっていう事なのだろう、遠慮なく隣に座る。
気にしないまま読書を続ける跡部。持っている本をそっと覗き込めば思わず顔をしかめてしまうくらいに並んだ横文字。
「…何語?」
「ドイツ語だ」
「絶対わかんないや。日本語でいっぱいいっぱいだよ」
「…ハッ、その通りだな」
私の発言が面白かったのか、跡部は小さく笑いだす。なんだよーって脇腹を小突けば、小さく咳払いをして私を見てた。完全に半笑いだけど。
ぽかぽか陽気の中、木の葉の擦れる音だけがこの公園に聞こえる。跡部は読書を再開させている。暇だなぁ眠たいなぁと考えていると先程の猫達がゆっくり近づいてくる。
鞄からパンを探り出していると、貰えると思ったのか恐る恐る寄ってくる。小さくちぎって投げてやると飛び付いていく。うわぁ可愛い!って思いながら少ないパンをあげる。必死で食べている姿が可愛くて、手を伸ばしてみると“シャーッ!”なんて威嚇される。(ちょっと怯んだ)
「…ははっ」
笑い声につられて隣を見ると、堪えきれないのか跡部が珍しく声を上げながら笑っている。
「お前アホだな」
「今のは…びっくりした」
「まぁお前にしては上出来だ」
笑いがおさまらないのか時折声を漏らしながらずっと笑っている。こんな跡部あんまり見ない、っていうか私も初めて見たから何だか変な感じ。跡部もこんな風に笑うんだなって、発見した気分。
笑いがおさまると跡部は眼鏡を外してケースにしまった。本はもう栞を挟んで閉じられている。
「眼鏡かけてる方がいいよ」
「アーン?どういう意味だ」
「なんかレアな気がする」
跡部の手に持たれた眼鏡ケースを横から取り、覗き込んでみる。意外と度が入っているようで、ちょっとだけクラッとした。
それから何をするわけでもなく、ポツポツ話はするけど特に盛り上がるワケでもなく、ゆっくりした時間が過ぎていく。なんか変な感じ。
「そろそろ帰るぞ」
「うん」
鞄を持って立ち上がる跡部と同じように私も立ち上がる。前には真っ赤な光。いつもはあんまり気にもしないけど、なんだか今日は特別綺麗に見えた気がした。
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