気持ちが重い。駄目だなぁちゃんとしなきゃ、そう思いながら相変わらず忙しいマネージャー業をただひたすらこなしていく毎日。


「…体調悪いのか?」

「え?なんで?」

「いや、…なんとなく」


部活に行くとき宍戸に話し掛けられる。心配してくれてるのかなぁって思うと凄くうれしい。なのに、そうじゃないグレーな感情もグルグル胸を覆ってくる。


「無理すなや」

「大丈夫だよー」

「また倒れんなよ!」

「あれは朝礼だったもん」


忍足くんにガッ君まで心配してくれてる。心配、かどうかはわかんないけど。
だめだ、ちゃんとしなきゃって気合い入れ直し。


「もう本当にすみません…」

「あはは、大丈夫だよ、だから鳳くんはコートに戻って練習しといで」


深々と頭を下げる彼はまたボールを遥か遠くに飛ばしてしまったようで。草むらの中のボール探し。無駄に広い校舎。どこ行っちゃったんだろう、ああもうこんなの見付かんない。


「サボってんのかな?」

「えーそんなの私でもマネージャー出来るし!代われよ!みたいなね」

「あははそれ同感!」


…いやな声。慣れてるからいつもは気にしない、だけど、なんかグサッと突き刺さる。あはははとどこからともなく聞こえてくる笑い声。コートから聞こえてくるみんなの頑張ってる声。
ああなんで、なんでこんなにも虚しいんだろう。なんでこんなに悲しくなっちゃうんだろう、私らしくないよこんなの。


「何してるんですか」


見上げると日吉。いつもみたいに無の表情でじっと私を見下ろしている。太陽に反射してキラキラしてて眩しい、だけど何だか余計に虚しくさせる。


「…ボールが見付かんない」

「どうせ誰か持っていったんでしょう」

「何個目なんだろうねぇ」


座り込んだまま、なんだか立ち上がる気にもならなくて。ただボーッと、なんだかキラキラしたテニスコートを眺める。
華やかでみんなが見てて、頑張ってとかいっぱい声かけてもらってて、何よりみんな、眩しいくらいに輝いていて。
私、なんなんだろう、なんて。


「…むーさん、はやく、」

「なんかもう、疲れちゃった」


子供かよ、なんて言いたくなるような内容が私の口から出てきた。疲れてんのはみんな一緒なのにもうほんとに、後輩に何て姿見せてるんだろうって、また後悔。日吉にはすぐ見せちゃうんだ、私のダメなところも嫌なところも。ダメな先輩だよほんとに。マネージャー、失格。


「…ごめん何でもないよ日吉」

「……そんなわけないでしょう」


もうほんと何なんだ私何様なんだただのマネージャーのくせになんで、なんでちょっと泣きそうになってるんだろうか。目からなんか出そうなのをぐっと堪えてふらっと立ち上がる。やらなきゃって気持ちを持ち直す。


「行かないの?」


ぐっと寄せられた眉間に細められた目。年下なのに何て迫力だろうか、なんかちょっと怖い。跡部に怒られるよって日吉の腕を引っ張って無理矢理引っ張ってく。ぽんぽんって軽く背中を叩いて送り出す。さぁやらなきゃ、って部室のパソコンを立ち上げて何時も通りに1日が終わる。


「…あれ跡部だ」


おもいっきり腕をのばしてたところには何故か跡部。もう白い制服に着替えてていつもの姿。


「どうしたの」

「もう遅い、送ってく」

「え、いいよいいよ」

「いいから早く準備しろ」


跡部もそう言ってくれてるからカバンに筆記用具とかを詰め込んですぐに準備オッケー。部室の鍵を締めて跡部の隣を歩く。
なんかいつもと違う。


「ねぇ跡部」

「あン?」

「日吉に何か聞いた?」


あ、黙り込んだ。
しばらく黙り込んだ跡部はゆっくり口を開く。嘘つけないんだなぁ跡部って。


「日吉から言ってきたわけじゃない。様子がおかしかったから聞いただけだ」

「そうなんだ」

「……普通だな」

「うんだって、ねぇ?」


ため息を吐いた跡部の足が止まった。私も同じようにとまると跡部は振り向いて、鋭い目付きで私を見た。


「馬鹿馬鹿しいんだよいちいち」

「えぇ…ちょっと真剣に悩んでたのに…」

「わかんねぇのかテメェは」


ぼんっと頭にぶつけられたカバン。うおっとよろめいて、目を開けるとそこには跡部の背中。広い背中だった。頼りがいのある背中に見えた。おっきぃなぁ跡部は、ってそう思った。


「テメェがマネージャーだから部活が成り立ってんだよ」


カバンをぶつけられたときに呟いた跡部の言葉は、ちゃんと私に聞こえてきた。嬉しくて泣きそうになった。先に歩いてく跡部の背中を追い掛ける。


「あとべ、」


ありがとう、と言うと跡部は小さく鼻で笑う。嬉しかったんだ、なんか頼ってくれてるんだって、私なんかでいいんだって、なんかもう色んな気持ちがあふれ出そうになる。
この感情を私は多分、きっと、一生忘れない。


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