テニスコートの整備をするからと早めに終わった部活。いつもはこんな時は、みんなで部室に籠もっているんだけど今日は違う。みんなは集まってるかもしれないけど、私は用事があって帰らなきゃいけなかったから1人でトボトボと帰り道を歩く。
みんな何気に心配とかしてくれたけど、帰りくらい1人で帰れる。宍戸や鳳くんなんかは一緒に来てくれようとしてたくらいだ。優しいよね。


「あれ。もしかしてむーちゃん?」

「…あ、っと……千石くん?」

「うんそう千石清純。覚えててくれたなんて嬉しいなぁ!こんなところで会うなんて、俺ってラッキー!」


目の前から歩いてきた、珍しい白の学ランにオレンジ色の髪の毛。正直彼に会ったことは一度しかないけれど、跡部がやけに話してたのを聞いてたから印象は凄く頭にある。彼が私の名前を覚えててくれたのは予想外だったけど、なんか嬉しい。
ひたすらニコニコしてる彼につられて私も同じように笑ってしまう。あんまり話した事ないからよく分からないけど、何だか素敵な人だと思う。


「部活終わったの?」

「あ、うん今日はテニスコート使えなくて」

「へぇ」

「でも部室にみんないるから、用事があるなら案内するけど、」

「ううんいいよいいよ、どうせなら君と話していたいな」


相変わらずニコニコ。用事があるんだけど他校のテニス部員と話す事って実はあんまりないから、せっかくだし、うん話そうって言うと一瞬驚いたけど、すぐにさっき以上の笑顔を見せてくれた。
部活の話もちょっとだけしたけれど、いつの間にか彼の質問攻め。


「千石くんはさ、」

「ん?なになに?」

「自分の話はあんまりしないんだね。もしかして苦手?」

「…え?……うーん…そんなことないんだけど…」


私の言葉に一瞬彼の動きは止まり、困ったような苦笑いを浮かべてぽりぽりと頭をかいた。
変な事聞いちゃったかなぁ。ごめんね気にしないでって言うと彼はいやいや大丈夫だよって優しく言ってくれた。


「でもなんかね、ずるいよ千石くん。私のこと話すのはいいんだけど、なんか…千石くんの事ももっと知りたいな」

「…そ、っかぁ」


変な顔させちゃって、言わなきゃよかったのかなってちょっと後悔。でも本当のことだもん。いっぱい質問してくれてコミュニケーション取れてるように見えるけど、本当はそうじゃない。一方通行って何だか、すごく悲しい。


「よく人を観てるんだね」

「マネージャーやってるから!みんな意地っ張りだから、ちゃんと見てなきゃいけないんだ」

「うん、優秀なマネージャーだ」


にっこり、浮かべた笑顔からはさっきの困った要素は消えていた。なんだかちょっと、優しい笑顔。私が最初に見た笑顔よりも、こっちの方が好きだなぁ、なんて。


「私でよかったら何でも話してね!」

「あ、じゃあ携帯番号交換してくれる?」

「あは、うん、いいよ」

「やっぱり今日はツいてるなぁ」


交換したアドレスと番号。人が嬉しそうな姿を見ていると、やっぱり私も同じように嬉しい。しばらく話してて何気なく携帯を開くと、ああもうこんな時間!慌てる私を見た彼はなんとなく状況を把握してくれたのか、同じように慌て始める。ごめんねごめんね、って、挙動不審な千石くんはなんだか面白かった。


「君ともっと話してみたいなぁ」

「ほんとに?ありがとう!」

「じゃあ今度は僕の事も聞いてもらおうかな。興味ないかもしれないけど」

「何でも聞くよ!届かない言葉なんてないんだから」

「うーん、さすが!いいこと言うねぇ」

「誰かが言ってた気がする」


あはは、って同じように笑う。ああ急がなきゃって彼に手を振って少し急いで道を走る。ふと、呼ばれた名前に後ろを振り向けば、オレンジ色に包まれた千石くんの笑顔はまるで太陽のようにキラキラして見えた。


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