深夜も何時だか分からない時刻、なんだか今日は眠れなかった。
戦いの後で傷付く人を見た後とかにはよく眠れなくなることはあるけど、最近は平和に過ごしてるからそれもないはずなのに。
部屋からそっと抜け出して、呆っと海を眺める。
月に照らされた海面は何度見ても幻想的で、静かな波が心を落ち着けてくれる。
結局、眠れないには変わらないけど。
「よう」
後ろから聞こえた声。
振り向けば、そこに立っていたのは全く見覚えのない人。
月に照らされるその姿はまるで、映画のワンシーンを切り取ったかのように神秘的に見える。
「……誰?」
「そんな警戒しねェでいいさ」
薄らと浮かぶ笑み。
そしてそっと私の隣に並ぶと、同じように静かに海を眺めてた。
誰?と、その疑問が頭を駆け巡る。
会ったことは、ないと思う。
多分。
だってこんなに綺麗な赤色の髪、探してみる限り私の記憶にはなかったから。
「ルフィは元気か」
「…ルフィを知ってるの?」
笑うだけで返事はなかったが、答えはきっと“YES”だろう。
目を細めて海を眺める表情は、えらく優しかった。
この人は怖い人じゃないんだと、なんとなくだけどそう感じて強張っていた肩の力を抜く。
「むー…だったか」
不意に名前を呼ばれ、それでも小さく頷くと彼はまた笑う。
肩にかかったマントで今まで気付かなかったが、どうやら彼には左腕がない、らしい。
―何かを、思い出しそうな気がする。
「俺はシャンクスだ」
「シャンクス……赤、髪…」
……わかった。
何時だったか、私がまだこの船に来たばかりの頃に、ルフィが嬉しそうに話してくれた事があった。
麦わら帽子をくれた、赤髪の、シャンクス。
彼は海賊としてもとても有名な人、だった…はず。
「どうしてここに?」
「特に理由はないが…ついでに確かめておこうと思ってな」
「…確かめる?ルフィのこと?」
訊ねると彼は薄ら笑いを浮かべながらゆっくり首を横に振り、否定の言葉を述べる。
ナミの事とかサンジの事、ゾロかもしれないしチョッパーかもしれないし、もしかしたら全然私なんかが知らないことかもしれないし。
考えたってどうせ分からないし、聞いたって教えてくれるか分からない。
だけどこの人は悪い人じゃないっていうのはわかってるから、緊張感はあっても怖い気持ちは無かった。
「お前を見に来たんだよ」
「……………私?」
突然の彼の言葉に驚いてそちらを見れば、さっきと同じようにまだ優しい笑みを浮かべていた。
私を見に来た、とはどういう事だろうか。
一瞬の間に色んな考えが頭を巡ったが、当然答えなんてでるわけもなくて。
馬鹿みたいな私を見て彼はそっと私の頭に手を乗せた。
「アイツは真っ直ぐだ。呆れるような無茶もするだろうが……ルフィを頼む」
そしてそのまま、彼はどこかに消えていった。
ルフィを頼んだって言われたけど、私なんかよりナミやサンジに頼んだ方がいいんじゃないかって思う。
…でも、ルフィが大好きな彼から頼まれた事だから。
何が出来るかなぁって考えながら、真ん丸な月をただ、眺めた。