短編 小説 | ナノ
悲しみの少女


――い・・・
――嫌だっ!逝かないでっ!!
――俺の・・・代わりに・・・・
――いやっ!私に代わりなんて・・無理よっ!
――もう・・・駄目なんだ・・・
――嫌っ!諦めないでっ!!まだ・・貴方には・・・
――あいつを・・・助けてやってくれ・・・―――



深い、闇のような所。
そんな場所に一人の少女が立っていた。
その少女の名は、「出雲」。
そして、今居る場所は――墓場。
「・・・・・・」
沈黙の続くこの所に強い風が吹いた。
少女は俯いたまま微動もしない。
その墓場は、自分の恋人の墓だ。
「零」
彼は、何者かによって殺された。
自分の一番に愛すもの。
その為に、今その犯人を突き止めている。
だが、なかなか見つからず、もう諦めかけていた。
――あいつを・・・
彼の言葉を思い出した。
あいつとは―――。
誰のことだろうか?
あの時、なにをしていた?
それすらも思い出せない。
出雲は、零を失ったショックで記憶を失ったのだ。
自分の家族に恋人が死んだと聞き、ここにいる。
何故か、とてつもなく悲しい。
誰かも知らない人のこと。
そんな人を・・・何故思いつめている。
何もかも忘れた筈なのに、自分の名前とあの言葉。
――あいつを・・・助けてやってくれ・・・―――
どうすればいいのだろう。
頭を抱え込むように、考え込んでしまった。
思い出せない。
どんな人間だったのか。
どんな性格だったのか。
どんなにいい人だったのだろうか。
そんなことを考えていると頭が痛くなる。
何者かに記憶を消されたようだ。
暗い闇の中の少女は、いまだにそこを動こうとはしなかった。
時が経つ度に風が強くなる。
気温は下がり、暗い闇はもっと暗くなった。
心臓がどくどくと。
血の温度が下がっているような・・。
とにかく、あの男が言っていた言葉。
あれを・・・。
わからない。
「わからないよ・・・零・・―――」
少女の眦から一粒の雫が流れ出た。
零・・――。
「あいつとは・・・誰なの・・・?」
だが、誰もその答えを教えてはくれない。

教えてくれる者はもう・・・。




この世には居ない・・・――――。



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