長編 小説 | ナノ
十五話 偽りの闇


嘘とは、偽りだとばれた時どうする――?

― 十五話 偽りの闇 ―

わらわは彼に初めて会った時、きっとやってくれると思っていた。
あ奴は素晴らしい力を持ち、強大な影を持っていた。
どんな光にも闇も凌駕(りょうが)し、わらわの願いも叶えてくれるだろう。
そう思った。
わらわの心には期待ばかり湧き上がっていた。
彼はわらわの思った以上のことをしてくれた。
この世界を闇で覆いつくし、光という存在を消すかのように。
わらわはこのような世界を望んだ。
きっとあ奴はわらわを捨てた事に後悔をしているだろう。
アキラに出会う前。
あ奴はもう死んだだろう。
わらわの望む世界は創られた。
わらわだけの世界。闇だけの世界。
光などわらわは嫌いだ。
そのようなもの、消えればよい。
だから。
アキラの最後まで。
アキラの妹、アキと出会ってしまい、あ奴はきっと戸惑っておる。
もしかしたらアキラが殺されるかもしれない。
そうなったら…。
わらわはそれを守る。
あ奴が最後までわらわの願いを通すまで。
きっと最後まで見れぬ。
わらわはきっと――。

教会の扉はさきの騰麗雅とトキによって壊れている。
元々教会自体がとても脆(もろ)く、壊れかけているが、それはさらに広がっていた。
もちろん、黒影とアキの大暴れによって。
月光がため息をついた。
《アキよ、貴方のせいでもうそろそろここは崩れそうですよ。貴方の言うとおり、一旦引きましょう》
「最初に言ったのはお前の方だろう」
《そうですね》
アキラを一瞥して、アキに近寄る。
もと扉のあった所に、黒影が立ちはだかる。
アキを睥睨した。
《逃がすものか……ッ!》
黒影の闘気が迸る。
月光は舌打ちをし、跳躍した。アキも同様。
着地し、月光が立ちはだかる狼を睨みつけた。
《邪魔だ……!今すぐそこから消えうせてもらいましょうか…ッ!》
狼が鼻で笑う。
《その前に貴様らを消してやる》
近くにいたアキがくつくつと嘲笑する。
「貴方にそんなことできるわけないじゃない」
確かにアキの言うとおりだ。
彼女は光の中で最強の力を持つ存在。
村人も奴隷のように扱うその姿はまさに女王。
恐れるものなどないのだ。彼女に。
たった一匹の影の王と戦ったとしても、光の王に陰の王が相手だ。王二体では勝てるはずがない。
だが。
《忘れるなよ。我にはアキラがい、それに僕(しもべ)どもがいる。我一人だけではないわ!》
アキが顧みる。
その後ろには刀を二本持った騰麗雅が構えていた。その近くにトキもナイフを構えている。
だが、月光の近くにいるアキラは何も武器を持っていない。武器はいらないという意味で持っていないのか。それとも。
それは黒影には関係のないこと。彼にとっては光の王たちが逃げなければいい、死ねばいい。
影の狼が高らかに嘲笑した。
《貴様らにここをどうやって逃げるつもりだ?》
低く低く笑う。
アキは歯を食いしばった。
そうだった。
アキラはともかく、他のやつらがいればこの間を抜け出すなど不可能だ。
ならば。
「月臨光華……」
《命を》
彼女の口に歪な笑みが浮かんだ。
「殺(や)れ」
月光から眩い光が放たれる。
《承知》
放たれた光が彼らを包み込もうとした。
アキラにトキ、黒影は闇だ。この光の空間では勝てる可能性を低くなる。
黒影が低く唸る。
《舐めるなッ!!》
同じように闇を放ち、相殺させた。
激しい音を立てて、崩れ落ちていく。
雪のように彼らに降り注ぐ。光と闇の欠片に綺麗にも見えた。
月光、黒影、アキ三人して睨み合いをしている。
殺気を放つ間に一つの声が割り込む。
「こんな所にいたのか」
アキラはその声を聞いた事があった。
一度、間近で聞いた、それは低くアキラ以外に興味を持たなかったあの―。
壊れた扉の部分から外が見え、明るいが暗い世界が広がっている。
その隙間からこちらを除いて見ていた。
「初めまして、に久しぶり…だな」
にやりと笑いを浮かべる。
外から吹く風にその赤い髪は大きく翻った。同じようにその纏う赤いコートも舞う。そしてこちらを射抜くその瞳は燃え上がるような赤。
すべて赤で埋め尽くされた彼は。
そう。
アキラはのろのろと口を開けた。
「ケイル=ジェルフォン……!」
ケイルはアキラに視線を向け、くつくつと笑う。
「おっ?俺の名前、覚えておいてくれたんだな」
喉で笑う彼を、アキは睥睨する。
「誰だ」
低く、はき捨てるような一言。
彼はアキに冷笑を浮かべる。
「ケイル=ジェルフォン。特殊部隊だ」
その言葉に眉を寄せる。
「特殊部隊、だと?」
もちろん、アキラも騰麗雅もトキも知らない。
「へぇ……知らないんだな」
黒影がさきからずっと睨んでいる。
《貴様はあの時の奴か……ッ!》
「なんだ、お前。会った事あったか?」
《貴様は知らないだろうな》
鼻で笑い、そのまま興味を無くしたのかそっぽを向く。
いつ会ったのだろうか。
ケイルと会ったのは、あの時森林の中でだ。
アキラの部下を斬り捨て、彼以外興味を持たなかった者だ。
どこの者なのかは訊かなかったが、特殊部隊というものからのようだ。
だが、訊いた事がない。
そのようなものがつくられていたのか。
「わからない奴が多いみたいだな。いいだろう、説明してやる」
特殊部隊。
それは、光にも闇にも属さない存在。
光の如く光華を持たず、闇の如く闇黒を持たず。
その意味は。
「俺は光でもあり、闇でもあるんだ」
それはケイル以外初耳だ。
唖然として彼を凝視している。
赤髪の少年は楽しそうに話していた。
「光のように輝かず、闇のように覆われず。力を半分ずつ持っているからだ」
その分、闇として、光としての力が半分となる。
だが、それは弱点がない、ということを示すことになる。
「それに、俺は光でも闇でもなく、光で闇でもある。誰が光か闇かの区別くらい簡単に出来るんだ」
だからな、と繋げ、続ける。
「例えば、お前な」
アキを指差す。彼女の拳が僅かに揺れた。殴りたい気持ちになったのだろう。
「お前は……光だな」
「当たり前だ。闇など汚らわしい……」
憎悪のたまった瞳だ。
影を持つ者ならば、誰であろうとも消すような気がある。
「じゃあな、お前は闇だな」
トキを指差した。当たり前だ。アキラの忠実な部下が光だった、などと知らされたらアキラにどうすることもできない。
アキラは闇だという事は決まっている。
アキも光の王で、アキラは影の王だ。
「次は……お前」
騰麗雅にそっと指を指した。彼女の肩が一瞬震えたように見えた。何かに怯えたような。
それに気づいたのはアキラとトキだ。トキがアキラに視線を注いでいる。
騰麗雅の額に冷や汗が流れた。
ケイルが一瞬瞠目した。だが、すぐににやりと笑みを見せた。
「ほぅ……?」
くつくつと笑うケイルに騰麗雅の肩が僅かに震えている。
「その女――光だ」
全ての空気が変わった。
騰麗雅はアキラとともに行動をしている。闇の筈だ。
では何故。
「そんなこと……そんなことがっ、あるわけ…!」
トキの声が震えている。
アキラも同様に心が混乱している。
彼女は闇のはずだ。そう。そう言ったのだ。騰麗雅は。
アキが高らかに笑う。
「そんなわけないでしょっ!あの女はお兄様といたの!光なら消滅が始まっている筈だわっ!」
アキラがある言葉に反応する。
「消……滅…?」
ケイルは彼女を睨む。
「俺が嘘をついているとでも言うのか?」
「それ以外に何があるっていうの!」
「誰が光で闇を当てるかなど、朝飯前だ。それを間違える筈ないだろう?」
「まだ言うかっ…!」
アキから殺気が零れ落ちる。
「止めろ」
短く一言言葉に乗せる。
アキがぴたりと止めた。
そして彼女に顧みる。
騰麗雅は悲しい瞳をしている。
「奴の言う事は正しい」
彼女は目を細めた。
ああ、知られたくなかったのに。

「”私”は光だ」



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