長編 小説 | ナノ
十話 妹


昔の出来事掘り起こし、浅い傷を深くして――。

― 十話 妹 ―

逢える、と信じていた。
私が変わってから。
きっと、死んだと思っている。
あの影が話さない限り。
きっと、今頃話しているだろう。
この気配はあの影。
もう復活してしまった。
私はあの人が好き。
だから、助けたい。
あの深い深い、彼の心を戒める深い闇の塊から――。

あの教会は、知っている。
何かを知っている。
そう。
何。
なんだろうか。
考え込み、立ち止まる彼を胡乱な目で見つめる黒獄闇影。
《どうした》
はっと我に返る。
目の前にいる暗黒の狼が首を傾げている。
慌てて手を振って、苦笑した。
「ううんっ、なんでもない。ただ、考えてただけ」
《何を》
「あの、教会……」
何か、知っている気がする。
だが、これは気だけ。
ただの気のせいかもしれない。
つまらなそうに軽く言い返し、黒影は翻る。
ちょこん、とすわり、彼を待っているように尾を振っている。
アキラは薄く笑みを見せ、険しい顔をする。
頭の中に過ぎる。彼女と過ごした日々が。
アキコ。
アキ=K=ヴァフォリーシュ。
彼女は光。
そういえば光だ。
自分とは違う存在。
そう。
もし、あの時自分が死んでいればアキは辛い思いをすることなくいき続けられた。
それに、今の世界のように暗黒の世界でならずのまま光の世界でいた。
それは全てアキラがやった事。そして―騰麗雅がやったこと。
王であり、女王である。
ならば、この世界を。この闇の世界を守り続けなければならない。
そのためには、妹でも…例え大事なアキでも光なのだ。ならば、殺さなければならない。―否、殺す。でないと、必ず騰麗雅が殺すだろう。その前にアキがそこまで弱いのだろうか。
彼女は自分の妹。
ならば、そうカンタンにやられるほど弱い奴ではないだろう。
きっと、光で一番強い。
そして、敵対する時が来るかもしれない。
それはまだわからないことだ。
だが、起こらないで欲しい。こんなことは。
絶対に、アキと敵対するようなことには、決して。
刹那。
教会から叫びが轟く。
あれは――。
《逃げていった奴らだ……!》
冷や汗をかきながら、駆け出す。
何か。
何か、嫌な感じがする。
そう。
嫌な予感がする―。

街は全体的に闇に染まりつつあった。
それは黒影の仕業だろう。
だが、それを知らないトキと騰麗雅は空を剣呑な目で凝視した。
「これは…」
一体誰の仕業だ。
こんなことが出来るのはアキラのみ。
だが、アキラがこんなことをするはずがない。
そう。絶対に。
明るい光をもたらす太陽が雲―否、闇によって消されつつある。
段々と明るさを失っていく街を見渡す。
「アキラは…」
騰麗雅は顧(かえり)みる。
トキはこくりと頷く。
彼女はそっと瞼を閉じ、耳を澄ます。
声。
あの声。
あの時の声。
―あの、教会……
一つの声が耳朶に突き刺さる。
目を見開き、すぐに駆け出した。
その後をトキが追う。
無事だ。
騰麗雅の反応が普通だ。焦っていない。
安堵したトキ。そのまま騰麗雅の後を追った。

◆  ◆
「おい」
低い男性が呼ぶ。
目の前にいるもう一人の男は黒いコートを着て、扉に手をかけていた。
「なんだ?」
暗いその部屋は、二人の男をしっかりと映さない。
「何処へ行く気だ」
その言葉に怒りが込められている。
だが、軽く受け流す。
「さあ?王の所、かな」
軽く笑う。
男性は苛立っているようだ。
軽く舌打ちをする。
「王とはどちらの」
どちら?
決まっている、そんなの。
くつくつ、と軽く嘲笑する。
「闇の王だけど、今は両方…だな」
「両方だと?」
「もうすぐ……」
扉を開ける。
外は部屋よりも明るいがやはり暗い。
闇に覆われているからだ。
前に足を踏み込む。
一歩、一歩と。
男性は諦めたかのようにそのまま奥に行き、去っていく。
「もうすぐ」
外を目指した男はにやりと笑みを見せる。
―もうすぐ、光と闇の王が会う
◆  ◆

教会から霊圧が漏れていた。
それは強い霊力。
彼に匹敵するほど。
もしかしたら凌駕しているかもしれないほど。
一体誰だろうか。
《何を止まっている》
闇の声が耳朶に突き刺さった。
暗黒の狼を凝視する。
狼は此方を見ず、ただ教会の扉を見ていた。
《アキラよ》
「何か……」
嫌な感じがする。
《気のせい、だと思え》
そう思いたい。
だが、思えない。
何か感じる。
「気のせい……」
黒影の言葉を繰り返す。
彼の言霊は強い。どんな言いたい事があっても、発してはならない。
だが、黒影は彼の影だ。例え、別の生き物でも繋がっている。その為、アキラが何を思っていようと黒影にも通じるのだ。
だから、気のせいにしておくべきだと思ったのだろう。
その時、奥からさらに悲鳴が轟いた。
悲鳴の後には何かを切り落としたような音が聞こえる。そして、何かが飛ぶような音が―。
アキラの顔が青ざめる。
黒影は彼の意思のままにその扉を勢いよく開く。
その奥には――。

ヒトとしての形を失い、支離滅裂になっている手足。村人の少女の髪を手で掴み、ぶら下がっている。その下に、無数の髪が舞う。血飛沫が壁につき、白い壁の筈が、赤く赤く染まっている。地面には未だに止まらず流れ出る朱色のものが彼の足元まで流れた。血で汚れた手に持っているものは少女の生首。その首を持つ者は小さく嘲笑した。



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