長編 小説 | ナノ
七.五話 過去、ララ編


家族の為に―――。

― 七.五話 過去、ララ編 ―

生まれた時は誰も気づかなかった。
私―ララ=カルヴァーナは育ち続けている。
母も父も、医者も…私が光だと思い込んでいた。
けれど、それは私が五歳から変わっていく――。

この街で育ち、今も姉、ナナ=カルヴァーナと遊んでいる。
大きな木々で囲まれていて、自然な公園だった。
少女の二人の声が響いた。
「ほら、ララ!」
紙風船でナナが空へ高く上げる。
ララは手を伸ばし、一生懸命腕を伸ばし紙風船をとろうとする。もちろん届くはずがない。紙風船は風にのり、さらに空へと舞う。
「おねえちゃん……と、とれないよぉ」
何度も何度もジャンプしてとろうとするが、紙風船はさらに遠ざかっていく。
「こういう時はね、ララ。光の力を貸してもらうのよ」
「ひかり?」
「そう。こうやるの」
ナナは腕を伸ばし、なにか呟いている。
風さん、この紙風船をララが届くほどの高さに送ってください。
ざわざわと木々が騒ぐ。
風がそよそよと紙風船を飛ばす。ララの届くところまで。
腕を伸ばして紙風船に届く。くしゃ、と軽く潰れたが、ララは嬉しくて微笑む。
「とれたー!」
「こうやってね、光の力を借りるのよ。分かった?」
「うん!ララもやってみたい!」
ナナは苦笑する。
流石に無理があるだろう。この光の力は最近になってようやく少しだけ使えるようになったのだ。それでもしララがつかえたら、とてつもなく驚くだろう。
わくわくしながらこちらに瞳を輝かせながら凝視している。
「どうやるの?」
「良い?光にね、力を貸して下さいって言うのよ。そうすれば聞いてくれるかもしれないわ」
「うん、分かったっ!」
ララは微笑を浮かべ、潰れた紙風船に空気をいれ、また空に浮かせた。
ナナとララの髪が大きく翻る。服も風によって遊ばれている。
手を伸ばす。まだ届く位置だ。
「ほら」
ナナが紙風船を指でつき、空高く上げた。
ララの手で届かぬ位置まで飛んでいく。背伸びをするが、やはり届かない。
手を翳す。紙風船が飛んでいるところに。
そしてナナが言った事をそのまま。
それが彼女の運命を捻じ曲げたのだった―――。
「”ちからをかしてください”」
刹那―。
強い風が吹く。髪風船が翻り、さらに天へ天へと昇っていく。木々がざわめき、家などがめきめき、という音を出している。
ナナは顔元に手を翳し、少し隙間を空けてララを見る。
強い風でララの体がゆっくりと浮き上がる。
「あっ…」
急いでララの元へ行き、腕を掴もうとするが間に合わず、ララは一気に空へと舞い上がった。紙風船が飛んだ高さまで。
腕を伸ばし、紙風船をとったララはほっとして肩の力を抜く。
ナナも安堵して、ララから目を離し、街を凝視した。
破壊されている。風により、家のところどころが剥がれていく。
悲鳴が聞こえる。きっと家の主だろう。
この力は一体何なのだろうか。
光にしては荒い。
光にしては酷い。
では何。
何だろうか。
光、ではない――?
この力は光ではない、という事。
上からゆっくりとララが降りてくる。風にのって。
紙風船を手に、ナナの元へ駆け出す。
「みてみて、おねえちゃん!できたよ。おねえちゃんみたいにできたよ」
微笑みながらはしゃくララ。
ナナに微笑む事は出来なかった。この状況で笑っていられるほど、ナナは子供ではない。
人がこちら側に向かって走ってきた。
「おい!何なんだ、今の風は!」
「まさか、”闇”の仕業かえ…?」
怯えている。街の人、ほとんどが。
ざわついている。
「まさか、あの闇の奴らからか?!」
「違うはずよ。あの人たちはまだそんなに準備が整っていないはずよ。それにいきなり攻撃はしてこないわ」
「そ、そうだよな。じゃあ今のは……?」
「ま、まさか…この街にいるんじゃないかい?闇が」
「何だと?!」
闇。
ナナはゆっくりと口にする。
闇、とは一体。
「あ、あの……」
ナナが街の者たちに少し怯えながら呼ぶ。
街の者がこちら側に視線を向ける。
「闇って…なんですか?」
「闇、かい?それはね、あれを見てごらん」
指で指す方向を見る。
そこには、大きな暗い暗い城が見えた。
城の周りには霧が出ている。
「あれは?」
「あれはねぇ、闇っていう私達光の敵なのだよ」
ナナは目を見開く。
後ろでララが瞠目する。
この世界を暗黒に染めた張本人。それが闇。
「じゃ、じゃあ……」
「もし、この街に闇がいたら、あの村みたいに皆焼き払われちまうよ」
「あの村?」
「昔ね、あの城が生まれた日にね、ある村が焼かれたんだよ」
そこには、闇を持った子供がいたんだってさ。
「村を…焼き払ったのは……」
「そう、闇の子供なんだよ。闇は危険なんだ。早くこの街から追い出して……」
「追い出したらあの城に行くぞ。闇なんだ。殺さないといけないんだ」
殺す。
ララが体を震わせる。かたかた、と歯を鳴らす。
少し蹲っているようだ。当たり前だろう。目の前で自分を殺す、とはっきりと言われてしまったのだから。
ナナの裾を引っ張るララ。
「わたしが……いけないの……?」
「ララ……」
「わたし……やみ、なの?」
「っ…」
言いとどまる。
それは、ナナにもララにも分からない。
だが、あの力は。あの力を使ってしまったから。ララは。ララは闇、と認めるしかない。あの力を見てしまったから――。
ララの呟きが、街の人にも聴こえてしまった。ララに小言で話すのはまだ難しかったのだろうか、子供には声の加減がうまく出来ないものだ。
街の女性が瞠目する。
そして、ララの頬を手の平で思いっきり叩く。
「貴方が闇だったのね!!」
「なんだと?!」
「その子供がそうだったのか」
「子供でもあんな力、使えるのか?」
「けど、ある村は子供にやられたって聞いたよ」
「じゃあ子供でも使えるんだな」
「じゃあこいつだ」
「こいつが闇だ」
街の人が狂う。
ララのせいではない。
ララの中に潜む闇が悪い。
それなのに―。
母が、父が必死に止める。
「止めて!!この子は闇じゃないわ!!」
「五月蝿い黙れ!!」
「止めろ!」
「お前達はこいつと同じ運命でも逝っていろ!!」
手に持っていたビール瓶で父、母の後頭部を殴る。
破片がところどころに刺さる。パリン、という音を立てて割れた。
人形のように崩れていく両親。
ナナが叫ぶ。
「母様、父様!!」
だが、街のある数人が止める。
どうしようもない。
もう、逝ってしまったから。
この街の中心となる者―ヴァッド=リンドリッシュに逆らったところで死ぬ確立が高い。
ヴァッドが視線をララに戻す。
そしてララの腕を引っ張る。その手を必死にはがそうとするが、相手の力が強すぎる。
「おねえちゃん…っ、おねえちゃんッ……おねえちゃぁん…っ!」
「ララ!ララ…ッ!」
何度も何度も腕を伸ばす。ナナに。
助けて。
助けて。
悪くない。
私は悪くない。
何もしてない。
紙風船をとりたかっただけ。
それだけなのに。
どうして。
どうして。
ナナも必死に手を伸ばす。だが、その手は届かない。
どうして、妹が。
何も、悪くないのに。
街の人に取り押さえられる。ララと距離が離れていく。
連れて行かれていく。
何もしていないララを。
ナナの頬に一粒の涙が流れる。
「ララ――――!」

◆  ◆
悪くない。
そう、悪くないのだ。
ララは。何もしていない。
どうして…あんな子を。
あんなに優しい子を、闇にしてしまったのだ。
どうして。
何故あの子なのだ。
どうしてララなのだ。
他の者にしてくれなかったのだ。
ララ、ララ。
そんな哀しい、辛い彼女を助けたい。
けど、光の私にはできない。
どうすればいい?
いつも傍にいたい。
何があっても、傍に――。
◆  ◆

傍にいること。
それは、普通では許されない。
闇の近くにいるためには、彼女を殺さなければならない。
できない。
私には。
なら、どうすれば。
ララも傍にいてほしいだろう。
なら、どうする。
どうすれば。
…そうか。
殺さなければいい。
ララが悲しまない程に嬲(なぶ)ればいい。
それしかない。
ララはきっとわかってくれる。
私はそんな人ではない、ということを。
ただ、傍にいたい。
それだけだ。
ララも、そう思ってくれているのか―?

◆  ◆
痛い。
痛い。
助けて。
助けて。
痛いの。痛いの。助けて欲しい。
あの人に。信頼するあの人に。
傍にいてほしい。
もうイヤ。
こんな生活はイヤ。
死ぬ前に、あの人のそばにいたい。
きっと、大切に私のところにいてくれるだろう。
そう。
あの人は優しい。
私を可愛がってくれる。
何があっても。
何をしていいから。
傍に。
私の横に。
近くに。
居て欲しい――。
◆  ◆

それは、姉妹の願望。許されぬ願望。傷つけねば叶わぬ願望だった――。



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