長編 小説 | ナノ
四話 街


世界は暗黒ばかりではない――。

― 四話 街 ―

ケイルを帰した後、城に戻ると騰麗雅のとび蹴りが飛んできた。
「遅い!!!」
騰麗雅のとび蹴りは誰よりも強烈の為、アキラはかわすが、騰麗雅は一回転して綺麗に着地する。
ぎろりっと彼を睥睨する。アキラはそっと視線を逸らしながら苦笑した。後ろからトキの視線も感じる。
城の中では重い空気が続く。
重い空気になった原因であるアキラは苦笑気味に後ずさりする。
「ちょ……ちょっと出かけてくるね……っ」
軽く冷や汗をかきながら翻し、門に向かって走り出す。
「あっ……こら、待て!!アキラ!!!」
とにかくこの空気にいるのは辛いアキラだった。騰麗雅の言葉を無視し、門の力で開け走り去っていく。
何ともいえず、苦笑するトキ。どうにかアキラにはもう少し騰麗雅の言う事をきいてくれないのだろうか。きいてもらわないと少し困る。
確かに騰麗雅は荒く、自分の思い通りにいかないとすぐに怒る。少しそこが騰麗雅の悪いところだが、ほとんどは騰麗雅の言う事は正しい。が、正しくない時もある。アキラは明らかにほとんど悪い部分が多すぎる。そのため、その悪いところを騰麗雅に直してもらいたいのだが、アキラ自身が直そうという思考をもたない。そのせいでアキラが思い通りにいかず、苛立ちを持っている騰麗雅だった。そんな様子を溜息なしではいけないことだ。トキはいつものんびりとはしていられない。時々、ほんとに時々の事だ。騰麗雅とアキラが喧嘩するときがある。今のアキラは喧嘩などしないのだが、戦闘中などに変わるあのアキラだと短気ではないが、騰麗雅が嫌いなようですぐに喧嘩になる。けれど、あの戦闘中の時以外にはほとんど出てこない為、喧嘩は起こりにくい。もし喧嘩した場合、とめるのはトキの役目だ。トキ以外とめられる者はいない。それは当たり前の話だ。王と女王。その喧嘩に部下が止められるはずがない。だが、アキラ、騰麗雅の次の強さを持つのはトキだ。それに、あのアキラはトキには弱いようで騰麗雅のこともすぐに許してしまう。あのアキラは一体トキのことをどう思っているのだろうか。そう考えた事があるが、特に気にしなかった。アキラには他にも性格がある。多重人格、という奴だ。いくつもの性格がアキラの中にある。そしてそれはいつ出てくるか、それは分からない事なのだ。やはりその中で一番強いのはいつものあの冷静なアキラだ。見た目ではそうでもない。だが、言霊が一番強く、神の力をも使うといわれているそうだ。だが、その神の力はまだ誰も見ていないという。普通人には弱点というものがある。だが、アキラにはない。闇の王だ。弱点などあってはすぐつかれてしまい、やられてしまう。今までアキラに勝負を持ち込み、勝った者はいない。それでこそ王なだけはある。あの騰麗雅すら勝てないのだ。口では勝つが。
彼女はすぐにアキラのあとを追おうかと思ったが、こちらに振り返る。そして、にたっといやな笑みを見せた。
少し嫌な予感がした。
トキの勘は当たっていたようだ……。
「トキ。今すぐあ奴を追え」
「え……?」
「えではない。今すぐ追うのだ。そして捕まえてわらわの所につれて来い!」
「そ、そんないきなり……」
「いきなりではないわ!トキ、おぬしのあ奴に対しての躾(しつけ)が悪いのだ!今すぐつれてくるだけでいい!そしたらわらわが躾をつけてやるからのぅ……」
ククク……と悪の笑みを見せる騰麗雅。
なんとも乗れず、少し騰麗雅の思い通りには行きたくなかった。
「早く行け!命令だ!!」
「りょ、了解しました……」
”命令”には何があろうとも反攻は出来ない。明らかにやってはいけないことだ。
騰麗雅の命令により、地を蹴り駆け出すトキ。その後ろを満足そうに凝視する騰麗雅。
「よしよし。アキラに言い聞かせるのはやはりトキが一番だ」
うんうん、と一人で頷きその場を去る。
アキラとトキの帰りをまとうか。

あの暗い空気の中にいられるはずがない。
その暗い空気を出してしまった張本人がその場から抜け出す。
「少し、気分でも替えようかな……」
一旦とまり、瞼を閉じる。
そして、風にかき消されるほどの小声で呟く。
「”気分を変えて街に行こうかな?街の人には私が王っていう事がばれないように髪型も服装も変えてくれるかな”」
アキラの周りが黒い煙が纏わり付く。
一瞬にして煙が軽く破裂し、四散する。そこに立っているのは、髪は蒼の長髪で、瞳は紅。服装は、黒ではなく赤のコートを着ている。赤いコートの下はやはり黒の服。
「……ちょっとばれるかな?」
髪はともかく、瞳は一応多分大丈夫。着ている服は……ちょっとやばいかもしれない。
「”ばれないね”」
それは風により消される。
その時、アキラの肩が少し震える。
「……?」
いま、声がきこえた。それは自分の名を呼ぶ声。
あの声は―――。
「ト、トキ……っ!」
何故トキが?!
「あ……」
騰麗雅の仕業か。きっと自分で行くのが嫌になり、トキにでもまかせたのだろう。だが、あのトキは自分以外の言う事はきかないはず……。
「命令を使ったんだね……」
命令には絶対服従。逆らえるはずがない。あのトキですら。
「じゃ……トキに見つかる前に逃げよっ」
後ろから声がきこえる。それはきっとトキの心の声だ。それが此処まで聴こえるということは近い。
―さすがトキ……。足が速くて困るよ
足ではトキには勝てない。ならば術―言霊では勝てぬはずがない。
だが、こういうときは言霊ではなく、術を使う。術でもトキに勝つに決まっている。
今回使うのは、術でも言霊でもない。自然への頼みだ。
「”場所移動お願いできる?街から数m離れたところでいいから連れて行ってくれないかな?風神”」
その言葉により、アキラが風に包まれる。そして、風が小さな渦を作り消えていく。そこにいたアキラとともに。

アキラの気配が近い。
アキラの事だ。その辺りできっと服装でも替えて街にでも行くつもりだろう。
―アキラ……。そろそろ騰麗雅様の言う事を聞いてくれないだろうか……
それは当分無理な話な気がする。
草を踏みにじり、木の間をかけていく。木は不思議にトキの邪魔をせず避けていく。
風がトキの短い髪を揺らす。少し息切れをしながら走り続ける。
アキラの気配がすぐ傍だ。
その時――、アキラの気配が一瞬にして消えた。
トキは一旦止まり、もう一度アキラの気配を探す。
だが、アキラの気配は感じない。と、いうことは……。
「神の力を借りたのか……」
軽く舌打ちをする。
トキは思っているよりも冷酷な心を持っている。王や女王に対しては普段と変わらず陽気で冷静な口調をしているが、王や女王の前以外、もしくは無駄口を叩く時などには口調は変わり、冷酷な口調へと変わる。この冷酷さが元のトキである。
王に従う前は王にすら冷酷的な口調を使っていた。
どんなに移動してもアキラがそうやすやすと見つかるはずがない。
あれでも王だ。部下などに見つかるほどの強さではない。
風が吹く。その時にゆっくりと瞳を閉じ、風を感じる。
がさがさと風により揺らぐ草。自由に鳴き、恐怖すら持たぬ虫達。
トキの瞳がのろのろと開く。その中には、水色であったはずの双眸が黒き感情を持たぬ瞳へと変わる。
トキの能力―全てを鈍くし、全てを見通す瞳。
その黒の瞳で周りを見渡す。
瞬間、トキの向いている東側に捜し者を感じる。それは――アキラだ。
アキラはトキのいる場所から約1キロほど離れている。アキラのことだ。街内にでも入ってふらふらと遊ぶつもりだろう。服装も変わっており、髪も違う。トキの予想通りの結果だ。
軽く溜息をつき、地を蹴り森から出る。そして木の上に乗り、飛び移りそれの繰り返しをする。上からの方が見やすいからだろう。それに、移動も楽なはずだ。
「アキラ……」
最近、妙な気配を感じるんですよ。

ぴくっと肩を揺らす。
くるりと後ろを向き、じっと凝視続ける。
何かが来る。あれは……。
「トキ……」
やっと逃げる事が出来たかと思ったら今度は能力を発動させたようだ。
息を全て吐き出すように溜息をつく。トキが能力を発動させた、ということは必ずこの姿もばれてしまう。それに、トキのことだ。姿を変えずこのままやってくるだろう。そうなると此方が明らかに困る。せっかく街に来たくて服を替えたというのに意味がないではないか。
「どうしようかな……」
あの能力から逃れる事は出来ない。力を使わない限り。
この場合はやはり。
(逃げるが勝ち、だね)
まだ見つかってはいないが走り出す。
いつかはばれる。ならばばれるまで―否、見つかるまで逃げ続けてやる。何とためにここまでしたと思っているんだ。
街の中を走り出す、がもちろん疾走ではない。そんなスピード走ったら明らかにこの街の人ではないとばれてしまう。
そのため、加減をして走る。
その時、どこからか声が聴こえる。それは、泣き声に近い――泣き声だ。
普通の人にはわからないほどの聴覚。だがアキラは王だ。これくらい朝飯前。
人の声とまぎれてうまく聞き取れない。力を使えば楽だがこんなことのために使えるか。
自分の聴覚を信じろ。
方角―アキラが向いている方向。だから南。
風景―木がある。公園……のようだ。だが一人しかいない。それも泣いている。
泣き声が聴こえたほうに走り出すアキラ。もちろん本気ではない。人間のスピードで走る。
アキラの髪が風により遊ばれる。それは輝くほどに美しい蒼の長髪。他の人がざわざわとざわめく。どこからか「綺麗」やら「凄い」やら声が聴こえる。
そんな凄い髪なのだろうか。
軽く首を傾げながら走り続ける。
その公園はあまり遠くなかったようだ。すぐについた。そこには聴こえていた声とまったく同じ泣き声が響く。
一人の少女。ピンクのワンピースに花柄。髪は紅で、上で二つに結んでおり、少女はしゃがんでいて髪が地面につくほどの長さ。目をつぶって涙を流している為、瞳はよく見えない。
よく見ると、木に何か引っかかっているようだ。
あれは、白い珠で出来た首飾りのように見える。どうやらあれがどうにかして木に引っかかった、もしくは引っ掛けられたのどちらかだ。
アキラはゆっくりとその少女に近づく。
足音が聞こえたのか、その少女は瞬時にこちらに視線を向ける。
その瞳は、赤黒く人には嫌われそうな色をしている。
「どうかしたの?」
子供に言いきかせるような優しい口調で問いかける。
その少女はびくっと肩を震わせる。相当怖いのだろう。
「あ、あの……ね、あ、あれが……あれね」
震える指を木にひっかかっている首飾りに指す。
「あれね……大事な、大事、なものな……の。っ……」
「どうしてひっかかっちゃったの?」
普通、ひっかかるはずがない。どうにかしないかぎり。
「私のっ……あれ、を……遊び、半分で、とっられて……あそこに……」
「そう……。なら、私が取ってあげるね」
「え……っ?」
ひっくひっくと泣き続ける少女に微笑む。
アキラは軽々と木の上に飛び乗る。ぎしぎしと枝が揺れる。
その首飾りを切れないようにゆっくりとると、枝から飛び降りる。
少女はゆっくりと彼によってくる。少女がよるよりも、先にアキラが近づく。
「はい」
少女の首にかける。すると、泣き顔ではなく笑顔に変わった。相当大事なものだということがわかる。
「大事なものでしょ?ならなくさないようにね」
微笑する彼に少女も微笑む。
「有難う、お兄ちゃん」

『有難う……お兄様』

どくん、と心臓が揺れる。
声が重なる。目の前にいる少女と、頭の中に刻まれた少女の声と。
「!!」
目の前にいる少女は首を傾げる。だが、頭の中に刻まれた少女は眦から涙を流す。

『どうして……』

彼の体が崩れそうになる。それを保つ。
「大丈夫?」
心配そうな赤黒い瞳をアキラに向ける。
少し血の気がない顔でどうにか少女に誤魔化せるような笑みをつくる。
「大丈夫だよ」
良かった、と安心したように肩の力を抜き微笑んでくる。
さきよりも、此方に対しての警戒心がない。
少し安堵する。
刹那―少女が愕然とする。すぐに少女は叫ぶ。
「お兄ちゃん!!」
なんだか分からず、後ろを振り返る。が、行動は後ろにいた者の方が早かった。
アキラは避けきれず、後ろからバットか何かで後頭部を殴る。流石のアキラでも耐えられず、その場で倒れた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」

『どうして……お兄様…っ、こんな……』

声が、重なる―。





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