長編 小説 | ナノ
三話 二重人格


闇の王には勝てぬのか――?

― 三話 二重人格 ―

『まあ良い。なるべく早く片付けろ。わらわから許可をとる。では、まかしたぞ、王』
ぶちっ

アキラは溜息をつく。
敵であるケイルに掴まれながら。首にはナイフがつきつけられている。
王である自分をほったらかしにし、しかも「早く片付けろ」とこちらの方が不利な状況でどう片付けろというんだ。騰麗雅は時々、無理な事を言ってくる。きっと王だから何でも出来るのだと思っているのだろう。それはただの騰麗雅の思い込みにしか過ぎない。王も人間と同様、死は来る。だから、不可能な事を可能になど出来ない。王とは、ただえらいとしか言いようがない存在だ。それを騰麗雅は最強と勘違いをしている。
(騰麗雅ってちょっと考え方がバカな一面があるよね……)
城の中で呟いたり、考えたりしていてもそれは騰麗雅に聴こえてしまう。だが、今は城の外の為、呟いても考えても特に問題は無い。
どうしようもなく、アキラはまた溜息をつく。
その様子を見ていたケイルは胡乱な目を向けている。
先とは性格が違う気がする。
先のは明らかに冷酷で勝負にしか興味の無いような言い草だった。が、今のアキラは冷静で先と同じ人物には見えない。
少し試してみるか。
遊びの気分も入っているような思考だった。
「おい」
いきなり話しかけられたアキラは顔を上げ、視線をケイルのほうに向ける。
「お前、名は?」
アキラは少し唖然としていたが、すぐにクスッと軽く笑い、微笑む。
「アキラ=R=ヴァフォリーシュ。君は?」
アキラの問いかけに少し愕然とするケイル。
先の戦闘中にアキラから言ってきた筈だった。
『お前の名ぐらい、訊いておいてやろう』
と、言ってきた筈だ。
だが、今のアキラは彼の名を知らない。どういうことなのだろう。
少しの間考えていたせいでアキラは怪訝そうにこちらを見る。
はっと気づき、すぐに名を告げる。
「俺はケイル=ジェルフォンだ」
「ケイル=ジェルフォン?」
首を傾げるアキラ。
「どこかで訊いたような……」
それは当たり前だろう。先の戦闘中に名乗ったのだから。
(こいつ、本当に覚えてないのか)
「王、先の戦闘は覚えているか?」
「戦闘?あ、やってました?」
質問に質問で返す。
「……」
何ともいえなくなり黙りこむケイル。
本当に覚えていないようだ。
では先のアキラは一体何なんだ?
うーんと軽く唸るケイルを胡乱な目で凝視する。
その時。
ピロロロロッ
またアキラの携帯が鳴る。
ケイルが未だに携帯を持っていたので、奪い返しピッと押す。
携帯を耳から遠ざける。
『遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い!!!』
それはやはり騰麗雅だった。アキラの予想は当たっていたようだ。携帯を耳から遠ざけておいて正解だ。
「騰麗雅……今の状況分かってる?」
『なんとなくな。だがお前なら大丈夫だろ。王だろ?王なんだろ?』
すべて王で済ます気だ。やはり王ならば何でもできると思っている。
大きく溜息をついたアキラに苛立ちを持った騰麗雅が怒鳴る。
『何だその溜息は!!心配をかけるではないわ!このバカ!』
何とも言えなくなりうーと唸るアキラ。
その様子を唖然としながら凝視するケイル。
『さっさと殺れ!!』
その言葉にケイルは険しい顔をする。
「え……倒すじゃダメ?」
ケイルはアキラの言葉に愕然とする。王にしてはありえない言葉だ。
『……早く帰ってくるならば何でも良いわ』
ぶちっ
相変わらずいい加減な性格な騰麗雅だった。
こちらもまだ言い返していないのに勝手に切ってしまったのだ。アキラはさらに溜息をつく。そしてケイルに視線を向ける。
「ゴメンね」
ケイルには理解できなかった。
いきなり何を……。
その瞬間アキラはケイルの腕から消え、秒速で赤髪少年の首をうつ。うめき声を上げ、倒れこむ。
「これが……王……。速い……」
ケイルはまだ意識はあった。だが、アキラの一撃は響いたようだ。視界が薄れる。
何か気づいたかのようにあっと声をあげ手をぽんと叩くアキラ。
「そういえば、どうして私が戦闘のこと覚えてないんだって悩んでたよね」
心を読まれた。王ならば当たり前か。
「私は二重人格だから自分でもよく分からないんだ」
苦笑するアキラ。それを目を見開いて凝視するケイル。
二重人格……だと?
「もうこれ以上此処にいるのは良くない。私が帰すね」
そっとケイルの肩に触れる。先の戦闘で溶けた肩側を触る。軽く呻く。
「”この森は危険だよ?おうちへお帰り。迷子になる前に……”」
それは戦闘中と同じような言霊。
言霊を唱えるとケイルはその場から消える。
アキラの術―言霊により街へ戻ったのだろう。
「さて……早く帰らないと騰麗雅とトキに怒られそう」
小走りで草をかけるアキラ。ケイルが元いた場所に白い何か塊がある。その塊は風で草により隠れる。
アキラはその塊に気づかず、城へと戻っていった。

白い塊が鈍く輝く。





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