長編 小説 | ナノ
二話 ケイル


王は闇、闇は王――。

― 二話 ケイル ―

どこからか叫び。
助けを呼んでいる。
何度も何度も。

部下達の声が――。

「ぐあぁ!!」
何処からか、声が聴こえた。それは苦しみを絶叫している声だ。
その声が聴こえたのか、アキラは地を蹴り木に乗りながら声の聞こえた方へ向かった。

「弱者が……」
赤髪の少年は、そっと刀についた血を舐める。
このような者に他の奴らはやられていたのか。
「バカどもだな」
ぼそっと呟き嘲笑う。
その時、がさがさっと草むらから音が聞こえ、少年は瞬時に音がした場所を斬る。
刀には新たな血がついていた。
少年が斬った場所には、兎が真っ二つに斬れていた。
鼻で笑うと、彼は目を閉じ何か気配を探っていた。
(王は……どこだ)

「くしゅんッ!」
ずず、という音を立ててすする。
「どこかで噂でもしてるのかな?」
緊張感のないくしゃみをすると、木の上に飛び乗り部下の気配を追う。
部下の気配は明らかになくなりかけている。それは、部下達が死んだ―というべきだ。
だが、リーシェンは100人ほどで行った、と言っていた。ならば、まだ生きている奴はいるはずだろう。もし生きていなかった場合は―――。
「それくらい、強い相手って事かな?」
風にかき消されるほど小さな声で呟き、一人で苦笑した。
その瞬間、はっとなにかを感じたかのように自分の気配を消した。
(誰かが私の気配を探っていた……?)
侵入者か……!
「ふーん……」
なかなかやる相手みたいだね。
薄く笑みを浮かべると、木の上から降り駆け出す。
声がきこえる。それは、部下の助けの声。残り数名の部下。時間が経つ度に消えていく命。いそがないと手遅れになる。部下の100人ほどが全て死に絶える。
(そんなことさせるものか……ッ!)
アキラは必死に、疾走していった。

刀をさし、肉の破片が草むらに落ちる。刀により千切られた肉の部分を手で押さえ、苦痛に満ちた顔をするアキラの部下、フォルト=ネーヴィットを見て、赤髪の少年は笑う。
「さぁ……王になんか頼らずに俺を殺してみたらどうだ?」
挑発するような言い方をし、少し頭にきたのか、フォルドは刀でさされた場所から手を離し、剣を掴む。剣を構えると、少年は刀すらも抜かずただぼーっと立っているだけだった。
(罠……、なのか?)
相手の不審な行為を凝視し、訝る。だが、ここで剣を振ったら必ず避けられスキをつかれるだろう。
ならば、どうすれば……。
「どうした?来ないのか?」
さらにフォルドを挑発する。
だが、挑発には乗らずただ構えているだけだった。
(ここで挑発にのったら死ぬ、という事ぐらいは分かっているようだな。バカばかりではないみたいだ)
軽く鼻で笑うと、少年は刀を抜く。
「ならば、此方からいかせてもらおうか」
冷や汗をたらしながら後ずさりするフォルド。
後ずさる彼をせめていくように近づいていく少年。
風と虫の音、声だけが響いた。
その中、先に動いたのは少年の方だった。一気に前に出て、刀を縦に振る。フォルドは少し反応が遅れて少年の刀を剣で受け止める。がきん、と鈍い音が響く。
一旦刀を離し、もう一度刀で斬りつける。フォルドは遅れず、刀を止める。―瞬間、少年は左手を瞬時に腰へまわし、銃を手に取るとフォルドの腹目掛けて打ち込む。
その銃の一発は強く、フォルドの腹から朱色に染まっていく。そのスキを見逃さず、少年はフォルドを斬りつける。直撃したフォルドは、木に叩きつけられる。
「がはっ……」
傷口をおさえながら、顔を歪める。
「さて……そろそろ終わりにしよう」
刀を首元にあてる。刃先が鋭く光る。
少年が刀を振り、フォルドを斬ろうとした時だ。
刹那――。
フォルドを斬った筈だが、目の前にはもう一人の少年がいた。
「お、お前は……」
少年は愕然とする。
あの一瞬の間にどうやってこの隙間に…。
「お、王……」
口から血が垂れていき、せきをする。アキラは、赤髪少年の刀を振り払うと、フォルドの体に手を当てる。
「”傷よ、今すぐに我が部下の元から消え去れ”」
それは言霊のようだった。見る見るうちに傷は癒えていった。
愕然として凝視していた少年は、我に返る。
(これが、王の力か…)
少年の目の前にいる、王はゆっくりと立ち上がる。
「何者だ?」
先の言霊よりも低い。怒りで声音が低くなっているだけだろう。
こちらを凝視する王を鼻で笑う。
「はっ……。王の部下とはそこまで弱いものなのだな。つまらないにも程がある」
「ほぅ……?」
その言葉には、怒りが入っているようだ。
アキラから、物凄い力を感じる。
「なら、私とやってみるか?」
「王なのだから、少しくらいは楽しませてくれるだろう?」
楽しませる?アキラは嘲笑う。
「私はお前を楽しませる前に始末する。だから楽しむ必要はない」
冷酷に言い放つ。
まだ、勝負すらしていないのに赤髪少年の呼吸が荒い。
「それは……どうかな!!」
瞬時に刀を振るい、横に斬りつける。アキラは軽々とそれを止め、左手に持つもので少年を斬る。少年が地を蹴り後ろへさがるとアキラの攻撃をかわす。
アキラの持つものは、刀ではなくナイフだった。
少年は、後ずさりし体制をとる。
先まで風の音すら聞こえぬ間だったが、少年の声により響く。
「王、名は?」
「名だと?お前風情に教えられる名ではない」
「冷たいな。王……」
「自分で私の名を聞けるほどの実力を見せてみろ」
「もちろんだ!!」
左手に持つ銃でアキラを撃つ。だが、アキラはそれを避けようとはしなかった。
「”弾丸よ、すぐに主の元へ還れ”」
アキラの言霊により、弾丸は向きをかえ少年の方へ戻っていった。
それを避けると、さらに撃ちこむ。今度は避けていく。
「お前の名ぐらい、訊いておいてやろう」
立ち止まり、軽々と銃弾をかわす。
「俺の名?」
「そうだ。一応私が認めるほどの強さは持っていないが、名ぐらいは私の中に刻んでおこう」
少年とアキラの間に沈黙が続いた。
「ふっ……は、ははははっ、はははははは!!」
少年の嘲笑にはアキラは平然としている。
「そうか……それは嬉しい、とでも言うべきか?」
「それは人次第だ」
「く、くくくく……」
未だ嘲笑う少年に少し苛立ちを持ったのか瞬時にナイフを投げ、少年の頬を軽く切る。
「……いいだろう。俺の名は”ケイル=ジェルフォン”だ!」
赤髪少年、ケイルは刀を瞬時に仕舞い、腰にさしてある銃をとるとアキラに連続撃ちする。だが、軽々とかわすアキラにケイルは腰にあるナイフを投げる。それも軽々と避けられた。
「甘いな」
ケイルに近づき、ナイフで切りつける。流石のケイルでもそれは全て避ける。
今だ!!
裾に隠してあった鎖を出し、アキラの腕を捕らえる。
「捕った!」
「こんなことで喜んでる暇はないぞ」
鎖を利用し、引っ張るとケイルは少しバランスを崩す。そこを狙い、アキラはケイルの肩に触れる。
「”掌に触れしもの、腐れ”!」
刹那、ケイルの肩はアキラにより腐臭が漂う。
「なっ……!」
鎖をアキラが触ると、そこから腐り溶けてゆく。
「甘い……」
彼がそう呟くと、ほんの一瞬でケイルの心臓を刺す。が――。
「くく……残念だったな……」
アキラが舌打ちをする。
「外したか……」
心臓よりも数ミリずれたところにナイフが突き刺さっていた。アキラが後ろに宙返りし、もう一本のナイフを構える。
「今度こそ……ッ!」
ピロロロロッ
緊張感が抜けるような音が響く。それは、アキラのポケットからだった。
アキラがそのポケットに入ってた携帯を手に取り、ぴっと押す。それを恐る恐る耳に当てる。
『おっそ――――い!!』
その声は、ケイルの耳まで響く大声だった。
「あ、ご、ゴメン……騰麗雅」
『ゴメンですむと思うな!どこで油売ってるのだ!』
「え、えっと……私はこれでも部下の為に仕事してますよ」
『何処がだ!わらわはともかく疲れた!もう少しリーシェンの事を考えろ!ボケぃ!』
騰麗雅の言い草は酷かった。
その時、アキラの首元にナイフを当てるケイルがいた。
「……へ?」
マヌケな反応をするアキラに、怪訝そうな声がきこえる。
『どうかしたのか?』
向こうにはこっちの様子がなにもわからない。
ケイルがアキラの携帯をとる。
「あ……」
「お前は何だ?」
『……おぬしは誰だ?』
「俺はケイル=ジェルフォン。今、俺の手元にお前達にとって大事な王がいる」
『王?ああ、アキラね』
「アキラというのか……」
アキラから名が聞けず、王としか呼びようがなかった今、やっと名前が訊けたのか少し嬉しかったりしたケイルだった。
『まあ確かに大事だけれど……。ああ、さっきのアキラじゃお主に勝てぬわけだな』
「は?」
『まあ良い。なるべく早く片付けろ。わらわから許可をとる。では、まかしたぞ、王』
ぶちっと音が聞こえた。騰麗雅から電話を切られたようだ。
「……」
良いのか、あいつは……。
胸元に刺さっていたナイフを王の首につきつけている。
こっちを見た時、王は苦笑していた。

騰麗雅、酷いなぁ……。




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