長編 小説 | ナノ
一話 侵入者


この世界に光はあるのか――?

― 一話 侵入者 ―

誰かが呼んでいる。
よく聞いたことのある声。
誰…?


「――さい、起きて下さい!」
ゆさゆさと、体を揺らす。
「ん……?」
目を擦りながら机にある本を枕として眠っていた少年。
右目は橙、左目は赤の瞳を持つが、今は少し濁っている。横髪は長く、それに対して後ろは短い金髪。眠っていたせいか、髪が変な方向にはねている。
この少年、アキラ=R=ヴァフォリーシュは目の前にいる少年を凝視する。
「読書中に眠らないで下さい、アキラ」
少し怒り気味のトキに対してアキラは苦笑する。

アキラ=R=ヴァフォリーシュ。
この暗黒の世界の王となった者。人間への憎しみにより世界は変わり果てた。
未だこの世界を好まぬ人は多くいる。その者達は、アキラに立ち向かうが全て兵により死亡。彼と手合わせした者はまだ存在していない。

バンッ、と扉を思い切り開ける少女。
「アキラ!いつまで本を読んでいるのですか!もう少し兵達を見てやることは出来ぬのか!」
づかづかとアキラの目の前で仁王立ちしている紫の双眸でアキラを見下ろし、腰辺りの長さの緑髪の少女、騰麗雅(ありあ)は少し殺気立っていた。

風驪 騰麗雅(ふれい ありあ)
力を得たアキラを拾い、世界を暗黒へと導かせた者。
戦いを好まず、敵は全て自分の部下に任せている。だが、強さは見た目以上。

冷や汗をかきながら、苦笑いをするアキラを睥睨する。
その横で見ていた、水色の瞳に横髪が片方だけ少し長い黒髪少年、トキ=アルツフィァーは少し慌てる。

トキ=アルツフィァー
アキラの部下。
アキラの為ならば命をかけてまでして戦う。戦闘中以外は結構ボケている。

「王は王らしく、部下の面倒をしっかりみなさい!」
怒鳴りつける騰麗雅、未だ苦笑気味のアキラを交互に見る。
「トキ!お主もアキラに何か言うべきだ!」
「えっ?!」
流石に王にそんなことは…。
戸惑うトキに苛立ちを持つ騰麗雅。
「王として考えるべきではない!これは!」
「は、はい……」
気迫で是としか答えられなかったトキだった。
それを見ていたアキラはやはり苦笑いをしていた。それを見た騰麗雅はさらに怒鳴る。
「だから苦笑してる暇があるのならばさっさと部下の下へ行け!」
「は、はい!」
アキラが椅子を倒し、小走りで部屋を出て行った。
「まったく……困った王だ。わらわもこれでは休めぬではないか……」
ハァ、と溜息をつく騰麗雅に何とも声賭けが出来ず、しょうがなくトキはアキラが倒した椅子を直し、アキラの後を追った。

アキラがさきまでいた部屋は五階。部下がいるのは一階だった。この城には階段しかなく、エレベーターなど楽なものはない。それなのに、階は全部で十階ぐらい。ぐらいとは、明らかにされていないからだ。
一階まで駆け下りると、アキラを呼ぶ声がした。
「王!」
声がした方に顔を向けると、そこには片目に包帯を巻き、左足が包帯で巻かれている姿の部下、リーシェン=カルティーナがいた。
流石にその姿を見た彼は驚く。
「どうしたの?!その傷……」
アキラは見た目よりも冷静で優しい性格ではある。戦闘中では少し変わるが。
顔を真っ青にして、王を凝視するリーシェンは少し慌てているようだ。
「大変です……ッ!この城から約100m先に侵入者が……」
「何っ?」
約100m先?それならば部下が何とかしている筈……。
「その侵入者は今まで来た者より強く、我らではどうにも出来ず……。今、数100人の者でやっているのですが……どこまで持つか……」
「分かった。すぐに向かうようにする」
「はい……」
「その間、リーシェンは休むと良い。きっと騰麗雅がすぐに来てくれる筈だから」
「分かりました」
その場でリーシェンは倒れた。それを、アキラは支える。その時、階段から駆け下りてきたトキはその状況がよく把握できなかった。
「な、何があったのですか!王……」
「トキ、私は今から侵入者を排除してくる。だからリーシェンを騰麗雅、もしくはホーリーのところに連れて行っておいて!」
ホーリーとは、傷・病・呪縛を癒す場所の事である。
リーシェンをトキに託すと、アキラは駆け出す。状況を把握できぬまま、いきなりリーシェンを騰麗雅かホーリーまで連れて行ってくれとは……無責任すぎる!
「えっ……王!」
呼び止めようとするが、アキラはそのままトキの声が聴こえず見えなくなった。少し呆然として立っていたが、アキラの言葉を思い出し、リーシェンを抱えると広い廊下を駆け出した。

さきまでアキラが読んでいた本を手に取り、ぱらぱらとページをめくる騰麗雅。
頬杖をつきながら、ぼーっとただページをめくっていた。
「アキラ……。何故こんな本を読んでいたのかしら?」
それは明らかに拳法の本だった。今のアキラに拳法の本など読む意味があるのか?
うーんと唸る騰麗雅。
本を読むのが面倒臭くなったのか、本を閉じ適当に本棚に入れると駆け足で一階まで駆け下りた。
「アキラの事だからしっかり部下の面倒をしているのかわからないな……」

「待てッ!」
鎧をつけ、剣を片手に草むらの中を疾走する少年を追うアキラの部下。赤いコートを纏い、その瞳、髪さえも赤の少年が地を蹴り木の上に乗る。
「お前らには用などない」
一言呟くと、木の上から降り、瞬時に部下達数名を切り刻む。跡形もなく。
恐怖を抱き、後ずさりする部下達を見下すような目をし、嘲笑う。
その赤髪少年の殺意には部下達は逃げ出そうとする。
「さあ……お前達王を呼べ」
だが、部下達は是と答えずただ剣をその少年に向けた。
「バカな奴らだ……」
鼻で笑うと、右手に持った日本刀を構え、部下達が剣を振った瞬間、瞬時に切り刻み、跡形もなくなった。日本刀についた血を振り払い、鞘におさめる。
「所詮部下……か」
跡形もなく消えた、部下の残骸がある筈の場所を一瞥する。

王はもっと俺を楽しませてくれるのだろうか?




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