沖田総司は、屯所内の自室で床に伏せっていた。
「あーあ、暇だなぁ」
思わずため息が出る。
「土方さんも過保護すぎだよねぇ。ただの風邪だって言ってるのに」
もちろんそんなはずもなく、彼の身体は『労咳』という不治の病に蝕まれていた。しかし、自覚があるのかないのか、以前と変わらぬ生活をしている。
この病気は、自分と松本先生以外は知らない事実である・・・はずだった。
「まさか、千鶴ちゃんにバレるとはねぇ」
その瞬間、謀ったように襖が開く。
「沖田さん、大丈夫ですか・・・?」
どうやら、今の独り言は聞かれなかったらしい。
「なんだ、千鶴ちゃんかぁ。別に、大したことないよ。それより、何しに来たの?まさか、襲われに来たとか」
いつものように軽口をたたき、笑顔を浮かべる。
僕は、この子がいると不思議と笑顔になる。
もしかすると、僕は・・・。
「か、からかわないでください」
一番大事な部分まで思考がたどり着く前に、千鶴は顔を・・・正確には耳まで・・・真っ赤にしてもごもごとつぶやく。
「えぇ?だって女の子一人で僕の部屋まで来たんでしょ?それしか考えられないと思うけどなぁ」
「わ、私はただ、沖田さんのことが心配で・・・!それであの、どこか痛いとか何か欲しいとかありませんか?私にできることならなんでも言ってください」
本当に、不思議な子だと思う。何故、僕ごときのためにここまでできるのか?
「ごめんごめん、あんまり面白いから苛めすぎちゃった」
僕は笑いながら話を流そうとした。
「別に、特にな・・・ごほっ、こほっ、こほっ」
急に、胸の辺りが苦しくなる。
「沖田さん!?大丈夫ですか!?」
千鶴があわてて駆け寄ってくる。
しかし、とっさに
(この子には絶対にうつしてはいけない)
そう思い、
「出ていけ!!」
大声で叫んでしまった。
「で、でも・・・」
「こほっ・・・いい、から早く!こほっ、そ、うだ。お茶、もらえる、かな?」
「はい!すぐ持ってきます!」
そう言って、廊下を走って行く足音が聞こえた。
とりあえず、これで千鶴にうつすことはない。
「はぁ、こほっ、まいった、な」
やっと少し落ち着いてきた。
そこに、お茶を持った千鶴がやってくる。
「沖田さん、お茶持ってきました。・・・まだ、苦しいですか?」
僕は、お茶を一口飲んでから口を開く。
「もう、大丈夫だよ。・・・ごめん、怒鳴ったりして」
千鶴は手をぶんぶん振り、少し微笑みながらこう言った。
「全然、気にしてませんよ!私にできることはこのくらいですから。また何かあったら、遠慮なく言ってくださいね?」
この子は・・・。
「そうだね、そうしようかな。じゃあ僕も、君が困っていたら助けることにするよ。まぁ、そのまま見捨てるかもしれないけど、ねぇ」
僕はまた、つい意地悪を言ってしまった。
しかし、彼女は微笑みながら
「頼りにしてます、沖田さん」
そう言って部屋を後にした。
・・・僕の病気は、おそらく治らないだろう。
決して弱気になるわけではないけれど、そんな予感がする。
それでも僕は、何より敬愛している近藤さんのためにも生きようと思う。
あ、あとおせっかいな土方さんのためにもね。
そして、願わくば千鶴という子の隣でずっと笑っていたい。
・・・それにしたって。
「やっぱり、土方さんは過保護すぎるよなぁ。これじゃ、あの子のそばにもいられないじゃないか」
こう言って沖田総司は苦笑いするのであった。
これが、今の彼の日常である。




>相互感謝として「楓華」の水葵様から頂きました沖千です!!
なんて可愛い沖田さんなんでしょうか…(´∀`*)
ありがとうございました!!



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