「ったくあの人は……」
もぬけの殻となっている政宗の部屋の前で、小十郎は額を押さえて呻いた。二、三日位大人しくして居られないのだろうか。ただでさえ度重なる戦で政務が溜まっているというのに。 うんざりしながら室内を見る。 そして、奇妙な事に気付いた。 「…殆ど終わってる」 部屋中に積まれた書簡の殆どは既に処理が済んでいる。残っているのは急を要さない物ばかりだ。 まあそこは良い。仕事が終わったのは何よりだ。勿論、こんなに速くやれるなら溜めるなという小言は置いておくとしてだが、それはともかく。 「仕事が終わってんなら、何でわざわざ抜け出すんだ?」 城下に出たのだろうか? いや、つい昨日雨が降ったばかりで酷くぬかるんでいる道の中、あの政宗がわざわざ抜け出すとは考えにくい。がさつそうに見えて、政宗は結構身嗜みに気を遣うし、綺麗好きだ。 じゃあ城内かと部屋を出た途端、成実と鉢合わせした。 「あれ?政宗またさぼって逃げたの?」 「いや、政務は終わってるんだが…」 「じゃあなんでいないんだろ?外じゃないだろうし、でも今日は会ってないよ」 「そうか、まあまた見付けたら教えてくれ」 「はいよ〜」 気の抜けた声でひらひら手を振る成実に背を向け、政宗を捜し出すべく小十郎は歩き出した。 ……そして数時間後、 「いったい何処に隠れてやがんだ政宗様は……」 城内中を歩き回ったため、やや疲れた声で小十郎は呟いた。しかし、これだけ捜したというのに、政宗はさっぱり見付からない。 「そういや、昔もこんな事有ったな…」 何時だったか政宗と成実がかくれんぼをやりたいと言い出して、自分が鬼をやることとなった。成実は直ぐに見付かったが、政宗はちっとも見付からず、二人で捜し回る羽目となったのだ。 そんなことをつらつらと考えて、小十郎ははっとした。 そうだ、あの時政宗が隠れていた古い倉庫の当たりは調べてない。 きっと、いや確実にそこだ。 足速に倉庫の方へ向かう。あの時は待ちくたびれた政宗が自分から出て来たので、何処に隠れていたのかは分からない。 「倉庫の中は鍵がかかってて入れねぇから…」 林の方かと見当を付け、近付いて行く。 ほんの数歩進んだ途端 ガサガサッ! 「っ!!」 林が揺れ、何かが飛び付いてきた。いきなりの事に対応出来ず、押し倒される。 「よお、随分時間が掛かったな。Time upギリギリだぜ?」 「何やってんですか貴方は……」 人の上に乗っかったままニヤニヤと笑う政宗に、小十郎は呆れた声を出した。 「珍しく真面目に政務をやってると思ったら……」 「Ha-Ha!ちゃんと終わったんだから別に良いだろ?」 「そういう問題じゃ有りません」 とりあえずどいて下さい、と政宗を押し退け立ち上がり、体に付いた砂を払う。 「まったく、私が気付かなかったらどうするおつもりだったんですか?」 「Ha!馬鹿言うんじゃねえよ」 鼻で笑い、政宗はグイと顔を近付ける。 「お前が俺を見付けられない?そんな事があるかよ、Jokeにもなりゃしねえ」 「ふ、そうですね」 自信満々な政宗に思わずこちらも笑ってしまう。 全くもってその通りだ。この自分が、『竜の右目』が独眼竜を見逃す事など出来る訳が無い。 「さあ戻りましょう。もう日が暮れる」 「だな、ah〜、ずっと縮こまってたから体痛ぇ」 「自業自得でしょう」 軽口を叩き合いつつ、二人は何時かの日のように、並んで城へと歩き出した。 政宗が小十郎を振り回すこういう関係はまさに私の理想ストライクッ!! 始終ニヨニヨさせて頂きましたv ありがとうございました! |