「油断したな、馬鹿め」

 うつ伏せに組み敷いた相手の顔は見えない。
 その顔を占めるのは驚きだろうか、怒りだろうか?
 それが悔しさであるなら、嬉しく思う。

 床にぎゅうと押し付ければ、苦しげに呻きが漏れた。

「放せ…っ」

 それでも兼続は圧力に屈しようとはしない。そのことは政宗にとっては予想通りでもあり、気に入らない事でもある。


 掴んでいた肩を放し、一瞬で兼続を仰向けにする。
 兼続はやはり悔しさと嫌悪感で一杯の瞳で政宗を突き上げるように睨んでいた。ただしそんな負の感情に塗れながらも瞳の奥はらんらんと光っている。

 政宗は一瞬面白くない、という表情を見せた後、にやりと嗤った。
 彼の指が、兼続の頬の輪郭をなぞる。
 びくりと身を震わせ、兼続は信じられないという顔をした。

「山犬!貴様なにを…」

 その顔を満足そうに見下ろし、政宗は更に嘲笑を濃くした。

「何じゃ?儂が貴様にそういったことをするはずがない、とでも思っていたか?」

 ますます青くなって振りほどこうと抵抗し始めた兼続の腕を、右腕で頭上に固定する。  無理矢理着物の前をはだけさせれば、白い首筋が見える。
 わなわなと震える兼続の耳に唇を寄せる。

  
「安心しろ――儂は貴様が大嫌いじゃ。」


 ああ、清廉潔白なるこの男をずたずたに引き裂いてやりたい。

 白には赤が、さぞかし似合うだろう。


 政宗はその首筋に噛み付いた。




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