「おい小十郎!」

 主が悪戯を思いついたガキのようなニヤリとした笑みを浮かべているときは、大体下らないことをしようとしているときだ。
 こっちへこい、と手招きされ、作業を中断して小十郎は政宗の方へ向かった。

「何ですか」

 政宗様はこんなことをのたまった。




「ちょっと姫抱っこさせてくれ」




「…は?」

 小十郎は思わず間抜けを出した。しかし政宗はそれなりに本気だったらしく、小十郎の背に左手、膝裏に右手を添えて、持ち上げようとしてきた。
 小十郎は思わす政宗の右手を蹴ってしまった。

「ってえ!」

「申し訳ありませぬ!ですが拒否します!」

「何でだ!?」

「嫌だからです!」

 頑なに拒否する小十郎。そうすれば政宗があきらめると思っていた子十郎だったが、政宗の反応は違った。

「いいか小十郎、姫抱っこっつーのは女の夢だと思われがちだが違う!コレは男のロマンだ!一度は好きなやつにやってみたい、そういうもんなんだよ。You see?」

「はあ…」

 政宗は姫抱きについて熱く語り始めた。
 だが小十郎にはよく伝わってなかった。若い者たちの間で流行っているのだろうかとか考えていたりした。

「…という訳だ、拒否られてもやるぜ!」

「えっちょっ」

 再び持ち上げようとした政宗。とうとう小十郎の(堪忍袋の)尾が切れる音がした。

「いい加減にしなされ!」

「ぐはっ」

「政宗様!?」

 横に腕を振るってしまってから後悔したがもう遅かった。
 小十郎会心のラリアットを受けた政宗は横に吹っ飛んで壁に激突した。
 打ち所が悪かったようだ。
 あわてて駆け寄って見れば、政宗は気絶していた。
 小十郎しかたなく政宗を抱き上げた。





「…はっ!」

「おお、気がつかれましたか。」

 政宗が気がついたとき、小十郎は政宗を運んでいる最中だった。 
 政宗は自分の状況に気付くと、暴れ始めた。

「おっ…下ろせ!」
「駄目です。頭を打ったのですから」

「くっ」

 そう、小十郎は政宗を姫抱きで運んでいたのである。
 政宗は抵抗をやめたが、真っ赤になってふてくされてしまった。
 その様子を見た小十郎は、ふっと淡く苦笑した。






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