「今日は一段と空が綺麗でござるな!」

 幸村が嬉しそうに言った。

 確かに今日の空は澄み渡り、星々はいつもよりくっきりと輝いていた。夏の夜は昼間の蒸し暑さはなりを潜め、清廉な涼しさと小さな虫の声が心地よい。
 でも、俺にとってはそんなことより隣に座る幸村の方が気になる訳で。

shit!何でそんなにcuteなんだ!

 俺に向かって無防備に笑いかける幸村を見ていると、邪な思いが首をもたげてくる。
 ったく、coolなフリすんのも案外大変なんだぜ。

 理性でなんとか押し込め、平静な顔をして答える。

「ああ、そうだな…」

 本当はお前の方が綺麗だよ、とかそういった台詞のひとつくらい言ってみてえが、まだ無理だ。何といっても、まだ思いすら伝えたことはないのだ。

 暫く他愛もない話をする。
 ふと幸村がぽつりと言葉を零した。

「明日はもう奥州へ発たれるのか?」

「ああ…ここには同盟を結ぶために来ただけだ。用も済んだことだ、そろそろ帰るぜ。」

 本当はもっとあんたと一緒にいたい。だけど城主が長く城を離れるわけにもいかないし、俺の我儘で小十郎や部下たちに迷惑をかけるわけにもいかねえ。武田のおっさんやお前にも迷惑かけちまうしな。それを考慮しての決断。

「そうでござるか…」

 暫くの沈黙。

 そろそろ何か言おうかと口を開きかけた俺に向かい、幸村はかすかに呟いた。

「もっと一緒にいたかったでござる」

 その瞬間、俺が散々押し込めていた理性の弾ける音がした。

 俺は幸村を抱き締めた。当然ながらそういうのに免疫がない幸村から狼狽した声が聞こえる。

「な…政宗殿?」

「幸村…好きだ」

 耳元でささやく。すると、幸村の方が抵抗が収まった。

 あれ?平素の幸村であるなら赤くなって「破廉恥であるぞ!!」とか叫ぶと思ったんだが。

 訝しんで幸村の顔を伺おうとすると。

「某も…政宗殿が好きでござる」

 幸村の腕が俺の背中に回る。
 ま、まさか両思いだったっていうのか!?

 とうとう耐え切れなくなって幸村をそのまま押し倒す。

「ま、政宗殿!?」

「悪ぃ幸村…もう我慢できねぇ」

 俺は勢いのまま幸村にkissしようとした。


「某も…同じでござるっ!」


 ぐるんっ


 その瞬間天地が逆転した。

「は?」

 気が付いたら幸村が俺の上に乗っかっていた。

「ずっと前からこうしたかった。しかし某は武田の一介の武将。貴殿は奥州の覇者。思いなど届くはずはないと思っておりました…」

 いやいやちょっとまて。確かにお前と両思いだったのは嬉しいが、そういうこと言うのは俺の方だろ!予想外の展開に頭が混乱してくる。

「でも貴殿も同じ気持ちだと分かった。これならもう悩むこともありませぬ」

 おいおいまさか――
 俺は抵抗を試みるがしっかり固定されていてびくともしない。そもそも力が同格なのだから、油断でもしない限り力で押し返すことはできない。

 幸村の顔が近付く。

 その顔が切なげですごくcuteで好きな子に迫られるとかすごくおいしいシチュエーションだけど今ここでそんなこと思ってる場合じゃなくて――


「愛しております、政宗殿」





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