「やっと見つけた!」

 薮の向こうに三之助の姿を確認して、俺は声を張り上げた。既に迷子になってから数刻は経っており、辺りは薄闇に包まれている。俺は迷子縄を握り締め、ずんずんと進む。

「よし、お前そこ動くなよ!…ってうわぁ!」

 ふっと足場がなくなるような感覚がした。どうやら段差があったらしい。足を滑らせた俺は、盛大にこけた。
 ぎょっとした三之助がすばやく駆け寄ってくる。

「大丈夫か?」

「いってぇ…足くじいたみてぇだ」

 左の足首が痛い。歩けないほどではないが、山道を抜けるのはつらそうだ。
 三之助は少し逡巡する素振りを見せた。

「歩ける?」

「どうだろ…」

「そっか、じゃあちょっと我慢しろよ」

 奴は立ち上がると、俺のひざ裏と背中に手を回し…

「よっと」

「なっ!!」

 あろうことか横抱きにしやがった。
 背負うとか、肩を貸すとか、もっと他になかったのかよ。
 顔が火照る。やめてくれ、と抵抗するが、自分より一回りでかい体はびくともしない。
 ああ、ニヤニヤしてるその顔、殴りてぇ。

「あー、なんかちゅーしたい」

「は、な、何いってんだ!」

 いいじゃん、させてよ。なんて言って、三之助が顔を近づけてくる。
 真っすぐ俺を見つめる瞳だとか、心臓の音も聞こえる距離だとか、そういうものにいちいちどきどきしてしまう自分が恥ずかしい。
 なんだかお前ばっかり余裕そうなのがむかつく。
 …なら、奪われる前に奪ってやれ!

「ばーか」

 ぽかんとした表情の三之助に、してやったりという感じだ。
 後頭部を引き寄せて、短く触れるだけの口付け。俺は顔をぱっと話して、にっと笑いかけた。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -