衝動のままに重ね合わせた唇。見開かれた瞳が視界一杯に映った。触れ合うだけの口付け。初めてだった。
 唇が離れた瞬間、何故かは分からないけれど、ぽろりと涙が零れた。

「…何で泣くんだ」

 別に泣きたい訳じゃない。でも無性にかなしかった。
 僕の視界は留さんで埋め尽くされていて、嫌でもその困った顔が目に入る。
 ごめん、ごめんね。本当は泣きたいのも怒りたいのも留さんの方だって分かってるんだ。それでも涙が止まらない。重力にしたがって零れ落ちた粒が、留さんの服に染み込んで行く。

「すき、すきだよ留さん」

 うわ言のように呟きながら、鼻をすする僕はとっても格好悪いと思う。愛の告白をするには、あまりにもお粗末だ。
 でも、留さんはそんな僕を抱き寄せて、あやすようにぽんぽんと背中を叩いてくれる。

「どうしたんだよ」

 留さんは優しい。無性に悲しくなっただけの僕は、彼の問いに明確な答えを返せるはずはなくて、ただぎゅっと留さんの背中に腕を回す。柔らかな暖かさが、冷え切った指にじわりと染みた。
 暫くそうしていたら、嗚咽も収まり、大分落ち着いてきた。名残惜しかったけれど、留さんの背中から腕を外して、向き合う。

「ね、留さん。…愛してるよ。」

「俺もだよ。愛してる、伊作」 

 そう言って留さんは綺麗に笑った。
 きっと不安だった。僕たちは、多分ずっと一緒にはいられない。当たり前のように存在するこの幸せな日々は、一年先には存在しないのだ。
 それでも僕は君が好きなんだ。けっして祝福されなくとも、先が見えなくとも。

「ねえ、もう一回、口付けしよう」

 あといくら口付けできるだろうか。
 百回、千回、また百回。
 留さんは柔らかく瞠目して、静かに顔を寄せる。僕らの影は再び重なった。
  





(共に生きよう、留三郎。そして愛し合おうよ!)

(太陽は一度沈んでもまた上る。でも僕たちは、いったん短い光が沈んだら、 永遠に続くひとつの夜を眠らないといけないんだ。 )





×××
意味不明ですみません。
伊作が乙女思考というか弱々しくてすみません。
カトゥルスのカルミナ第五歌をモチーフに書きました。



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