※ポー「黒猫」のパロディ
 残酷描写有、注意!




 今さら話してどうなる訳でもないんだけど、こんなの抱えたままあの世行きたくないし、話しとくよ。別に何も特別なことじゃない、つまらない日常の連続なんだけどさ。
 あの子を家の子にしたのは五年前かな。昔の友人の子でさ、その友達が死んじゃったから引き取ったんだ。旦那――同居してた友人ね――も賛成してくれたし。
 自慢じゃないけど、そのころの俺様自他ともに認める子供好きでさ、子供じゃなくても小さい動物とかも好きだったんだけど。まあ、そんなわけでその子のこともかわいがってたよ。政宗っていって、すごい無口で大人しい子だった。我儘もいっさい言わなくてさ。ちょっとかわってたのが、目なの。なんて言ったらいいのかな、金色で、瞳孔が縦に伸びててさ、そう、猫の目みたいな感じ。後、黒い髪とか性格とかも合わさって、黒猫みたいな子だったよ。
「黒猫はとてもかしこいという。きっと政宗も頭の良い子になるぞ」
なんて、旦那ははしゃいでたっけ。まあそんなかんじで、初めの二年くらいはうまく行ってたんだよ。
 おかしくなったのは、俺が仕事の関係でとある人物とつきあうようになったころかな。誰かって?名を言うのはやめとくよ、あんたのためにも。あのころから、俺様の性格は暗くて、キレやすい嫌な性格になってった。周りのことなんか考えずに、旦那にも大分ひどくあたった。
 政宗は明らかに俺様のことさけてたね。あの子さといからさ。その態度が余計しゃくにさわって、ある日あの子に向かって手近にあった重い灰皿を投げつけたんだ。幸い死ななかったけど、政宗は右目を失明した。
 俺の性格はどんどん悪化してった。政宗の俺様に対する嫌悪はますます酷くなった。ある日の晩、気が立ってて、政宗を家のすみっこの一室に閉じ込めたんだ。
 その日の夜、家は全焼した。全財産全部灰。もちろん政宗は助からなかった。
 呆然としてると、近所の人が燃え残った壁の前でさわいでるのが聞こえた。政宗を閉じ込めたあの部屋の壁だよ。何事かと思って見たらさ、壁にくっきりと、ひざ抱えて座ってる子供の姿がうつってんの。さすがにちょっとびっくりしたけど、偶然だろうと思うことにした。その壁の漆喰新しかったし、ひっついてたか崩れた壁に押されたかなんかだったんだろうって。
 その後古くて小さな家に引っ越した。俺様のかんしゃくの症状はひどくなってって、ひどい界隈にも足を運んでた。でも逆に、あの子に対する申し訳なさってのかな、そんな感情もあったよ。死なせなきゃ良かったって思う時もあってさ、やたら小さい子供が目についたね。
 ある日の夜、ちょっと胸をはって言えないようなとこで遊んでて、ぼんやりとしてた時、店の酒樽のかげに、小さい男の子が座ってんのに気付いてさ、近寄ってよく見ると、真っ黒な髪とか、猫みたいな目とか体つきとかが、政宗にそっくりだったのよ。
 なつかしくなってちょっとかまってやったら、すごいうれしそうにくっついてきてさ、店の子かってきいたらそうじゃないって言うの。ここらで見たことない子だ、って。
 しばらく遊んでやって、そろそろ帰ろうと思ったら何でかついてきてさ、別にいいかって思ってそのまま家に入れてやったのよ。すぐにあの子はうちに馴染んだよ。旦那ともすぐ仲良くなったし。
 でも、俺様はアイツが好きになれなかった。憎くてたまんなくて、できるだけアイツを避けた。さすがに前回のあれはそれなりに反省してたから、今度は手ェ出さないようにって思ってさ。でもどんどん嫌悪感はひどくなってって、アイツを見ただけでその場から逃げ出した。
 も一個気に入らなかったのがさ、連れてきた次の朝に気付いたんだけど、アイツ政宗と同じで右目なかったの。旦那はそれで余計にアイツをかわいがってたけど。ほら、無邪気なんだからさ。
 アイツは俺が嫌えば嫌うほどまとわりついてきた。執拗にっていっていいくらい。殴りたいくらいうざかったけど、まだブレーキはかかってた。前のことがあったし、なによりアイツがこわくてたまらなかった。
 あーのさ、こっから先は大分めちゃくちゃなことになるから聞き流してくれていいんだけど、ちょっと妙なことがあって、それが余計にアイツをおそろしく思う原因だったの。アイツの胸って言うか腹のとこに、大きいあざがあってさ、最初はぼやーっとしてたんだけど、だんだん形になってったのよ。それが、さ……
 ああ、うん、ごめん大丈夫、うん、そのあざがね、幻覚だったかもしれないんだけど、絞首台の形だったんだ。
 ねえ、俺様の惨めさが分かる?昼はずっとアイツにつきまとわれて、夜は悪夢にうなされて、ただの子供にここまで苦しめられて!
 ここまでくると、もう俺様まともな精神なんて残っちゃいなかった。世の中全部がにくくて、突然狂ったように暴れては、旦那がそれにたえての繰り返し。
 そんな日がつづいてた時、ちょっと用があって旦那と二人で地下室へ下りてったの。急な階段下りてたら、アイツもついてきて、危うく足踏み外して転げ落ちかけたんだ。もう頭にきてさ、手近にあった斧をつかんで振りかぶった。そのまま振り下ろしたらアイツは死んでただろう。けど旦那の手に邪魔された。その時はもう理性飛んでたから、腕を振り払って旦那の脳天に斧を叩き込んだ。一瞬で旦那は死んだ。
 その時は変に冷静だったね。すぐ死体の処理を考えた。幸か不幸か、そこの壁は塗りなおしたばっかで、しかも一箇所ぽこんと突き出たようになっている空間があったんだ。そこを崩して中に旦那の死体を押し込めて、元のように塗りなおした。
 あとはアイツの始末をつけるだけだった。でもアイツは逃げ出したのかそこにいなかった。
 その時の俺ほど幸福感に満ちた人間はいなかっただろうね。あんなにぐっすり眠れたのは久しぶりだった。人一人殺した後だってのにね。
 翌日、警察が来た時も俺は冷静だった。ここ最近じゃあ信じられないくらいにおだやかで警察の捜査に協力したよ。旦那が埋まってる地下室にもついてった。証拠なんてあるわけなかったし。
 当然何も見つかんなくて、警察は帰ろうとした。その時の俺はうかれてたね。何かひとこと言ってやろうとして階段上がりかけの彼らを呼び止めた。
「すいませんねー、おさわがせしちゃって、でもこの時期で良かったですよ。この家いろいろと手直ししたばっかでねー」(何を口走ってんのか理解できなかった、頭と体が完全に切り離されてた)「特にこの壁とか、まるで新品でしょう?」
 ここまで言って、熱にうかされたみたいになって、壁を強くたたいた。レンガの裏に、旦那が死体として立ってる壁に。
 ああ、まったく、悪魔にとりつかれたとしか思えないよ!
 壁をたたいた音の響きが消えた時、子供の泣き声。それにこたえた。初めは小さく、でもすぐに悲鳴のような叫びにかわった。狂人の苦痛と歓喜が混ざったような、いやもう人じゃないものとしか思えないような声が。
 そん時どう思ったかなんて言うまでもないよね。気ィ失いかけてふらふら反対の壁までいってぶつかった。警察の人らは一瞬凍りついたけど、次の瞬間、一気に駆けおりて壁を突き崩した。血まみれの死体がその前に立った。その足元には同じく血をあびて、隻眼を月のように輝かした、おぞましい悪魔が座ってた、俺に人殺しさせといて、告発の声を上げて死刑執行人の手に引き渡したこの化け物を、俺は壁に埋めちまってたんだ!!






誠刃ちゃんに何気なく「ポーの黒猫のパロディやってみたいな〜」なんて話をしたら、な、なんと!書いてくださいました!
無理言って、そして掲載遅くなってしまってすみません!
ありがとうございます!最高です!!


あと、補足ですが、警察の皆さんは、長政、小十郎、元親。とある人物は松永を想定して書かれたそうです。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -