96.叶える(馬趙)
※現代設定



 扉を明けた瞬間に突込んできた酒の匂いと恋人に吃驚した。
 押し倒された衝撃で尻をしたたかに打ち付けてしまった。痛いと思うよりも先に焦った。孟起が全体重を預けてきたため全然体が動かない。開け放されたままの扉から吹きつける風がひどく冷たい。
 とりあえず肩を掴んで揺さぶってみる。

「お、おい孟起!?」

 珍しくべろんべろんに酔っているらしい孟起は、真っ赤な顔して呻いている。眠気が酷いのか、反応が鈍い。
 正直まずは扉を閉めたいのだが。しかし無理矢理退けようにも重くて動けない。
 多少手荒な方法だとは思いつつ、私は孟起の肩を掴んで無理矢理上から引き落とした。
 玄関は結構狭い。ごろりと転がった衝撃で、したたかに頭をぶつけてしまったのか、孟起が短く声を上げた。が、聞かなかったふりをして立ち上がると、急いで扉を閉めた。
 振り返ると、上半身を起こし、後頭部を押さえて唸る孟起がいた。

「起きたのか?」
 
 顔をのぞき込むと、どうやら覚醒した訳ではないらしい。眠たそうなとろんとした瞳が私を映す。

「しりゅー…」

 がばりと抱き着かれた。 
 孟起は締まりのない顔でにやにや笑いながら甘えるような仕種で胸に顔を押し付ける。

「ちゅーしてくれ」

 いきなりなにを言い出すんだこいつは。
 思わず呆れそうになるが、そういえば孟起は泥酔状態だった。
 言ったそばから孟起の顔が近づいてくる。
 唇の距離は、あと数センチ。
 そこで、かくんと顔が傾いて、私の肩口へ倒れ込んだ。

「え、おい…」

 気持ち良さそうな安らかな寝息。
 どうやら完全に寝入ってしまったようだった。
 思わず苦笑して、そっと顔を近づけた。
 ちゅっと短く唇を重ねる。
 それでも完全に夢の中の孟起からは何も反応はないのだけれど、ちょっとだけ楽しい気分になった。
 叶えてやったささやかな要望のことなんて、彼は覚えてないだろうから。





 馬超は酒強そうですが、酔ったら酷いと思います。
 きっと明日は二日酔い。
 趙雲に介抱してもらうんでしょう。そんな話も書いてみたい。

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