「アストラル」 水音に満たされた空間があまりに静かで、俺は名前を呼んで振り返る。淡く光る薄い体を視界に納めた瞬間、俺は思わず目を見張った。 「うわ…」 無数の水の流れがアストラルのなかを通り抜けていた。水と同じようなのに、やっぱりアストラルは水じゃない、というよりこの世界の何物でもない。非現実的な光景に息を奪われて、思わず立ち止まる。 「どうした遊馬?」 「お前…体ん中…」 指差した先を追って金色の瞳が自らの体を見た。アストラルはきょとんとした顔をする。視線を上げてふわっと手を伸ばし、受け皿のようにしたアストラルの手の平を突き抜ける雨粒。そのまま手を握ったり開いたりした後、アストラルはぽつりと呟いた。 「やはり…触れないのだな」 「そりゃあな」 俺にしか見えないデュエルの幽霊。見えないんだから触れるわけがない。それでも突き抜ける雨粒にちょっとだけ眉を動かしたアストラルは少し残念そうに見えた。アストラルがもし実体ならどうなるのかな、なんて俺もちょっとだけ考えて、やめる。 雨はまだ止まない。 ただアストラルと遊馬が雨の中歩いてるだけというやまなしおちなしいみなしの典型例です。 最初の文句が国語の先生の説明でいつも出てきたのでそこから派生した話。 |