「すき、すき、好き」

 例えば、ステーキが好き、とか、海が好き、とかそういうのとはちょっと違う。たった一つの言葉は途方もない大きさを持っていて、同じようで違ういろんなものを包み込んでしまう。だから、ある一つのことを言い表すには大きすぎることがある。

「好きだ」

 ただ口ずさむだけなら簡単なこの言葉は、なんで、面と向かって言うときだけはあんなに難しいんだろう。誰かを向いたこの言葉は、とたんに矢みたいになって飛んでいく。それを受け入れて貰えようが貰えまいが、突き刺さるのだ。だから怖い。
 頭ん中で思い描いた先輩は、どう考えたって、俺とおんなじ言葉を返してはくれない。それでも、少しだけ期待してしまう。例えば、照れてそっぽ向いた横顔とか、赤く染まった柔らかそうな頬とか、ためらいがちに開いた口が、欲しかった言葉を形作るのを。
 だから、こんなふうに一人でいる時には、試しに言ってみたくなることだってあるのだ。

「作兵衛、すきだ」





 がたたっ

(ちょっと待て、今の聞かれてた!?)
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