「滝夜叉丸!」

 突然背後から聞き覚えのある声が私を呼び止める。条件反射で振り向いたら、いつもと同じように笑って立っている先輩は、普段と違うものを抱えている。 
 
「その花…」

「ああ、さっき取って来たんだ、綺麗だろ!」

 先輩は、夏の太陽のような大輪の向日葵を抱えてにかっと笑う。それがとても似合っていて、眩しい。その思いをかき消すように焦って言葉が前に出る。

「それ、どうするんですか?」

「うーん食堂のおばちゃんにプレゼントして飾ってもらおうかなと思ってるんだが…」

 ふむ、と一瞬考えるようにしたかと思ったら、その束の中から花を一つちぎり取る。もったいない、と言おうとした矢先に、先輩の手がこちらへと伸びてきた。
 条件反射でびくっとした後、頭に乗せられた何かの感覚に、それが先ほどの向日葵と知る。
 うん、と満足げに頷く先輩に、訳が分からなくて私としたことが少し動揺してしまった。顔に熱が集まるのを感じる。また先ほどのように満面の笑みを浮かべながら、先輩が言葉を弾ませる。

「うん、可愛いな」

 そんなありふれた褒め言葉(ただし男に向けるものではない!)と、幼い子供にするような愛情表現。強い力でかきまぜられて、綺麗に結い上げた髪の毛が乱れる。それなのに、嫌な気持ちは微塵も沸いてこなくて、混乱する。
 細められた目尻が下がり、上がった口角がまぶしいほどの笑みを形作っている。透ける逆光が彼の背中を通過して、私の目を刺す。
 きっと、この人は、何か考えてやっているのではない。天然でこうなのだ。でなければ、とんだ策士だ。ここまで巧妙に、さりげなく、この私の心を揺さぶるなんて。

「滝?どうした?」

 赤くなって俯いた私の顔を無遠慮に覗き込んでくる先輩の顔。心の臓が止まるんじゃないかと思った。
 ああもう、邪推しかできない。恥ずかしさが喉元を迫り上がる間に、先輩はまた、くるっと身を翻してしまうのだけれども。





 うちわのこへが持っているのが向日葵ってのがツボでして…。
 無自覚にいろいろやらかすこへと、いちいち反応する滝。
 無駄にいろいろ勘ぐっちゃって振り回される滝ちゃんかっわいいい!
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