※どこか同じ城に就職した後の話





「馬鹿だろ、お前」

 夕暮れを背に、ひたすら走る。どこまで行くのか、決める前に連れ出した。だからもう、走るしかない。
 前を行く俺に投げ付けられた言葉は、にっと笑って返す。

「そういう作兵衛こそ」

 その言葉に潜められた眉と、苦しげに吐き出された言葉。

「お前はもっと賢い選択できただろ」 
  
 わざわざ俺なんかのために、こうして、追われる必要なんてなかったのに、なんて。

(じゃあなんで俺の手を取ったの)
 
 ぶつぶつと呟かれた言葉は最後の方は尻すぼみになって聞こえなかったけれど、きっとこう思っているんだろう。でも、それは本心からじゃないってことくらい分かる。
 作兵衛だって、きっと逆の立場になれば、俺の手を引くんだろ? 
  
「俺は、後悔してないよ」
 
 歩んで来た道は赤い。もう、戻れない。
 躊躇いなど、最初からなかった。




そなたのために、たとえ世界を失うことがあっても、世界のためにそなたを失いたくない。
byバイロン

抜け忍になる話。
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