ほの暗い部屋の中で、どういう訳だか俺と三之助は向かい合っているらしい。
 薄明かりに照らされている三之助の瞳は、強い意志の光を有している。ぎゅっと握られた右腕が、熱い。

「作」

 呼びかけられた俺は、静かに目を綴じる。
 唇に落ちる、少しかさついた柔らかい感触に俺は――







「うわあああああああ!」

 思わず跳び起きて、夢だということを悟る。
 まだ辺りは明け方の闇に包まれている。薄墨で描かれたような景色の中に、眠る三之助が見える。 
 それにしても、ものすごい夢だった。まさか、あの、三之助が。
 考えると顔がかっかと火照りだす。つまり、俺と、接吻したいと思ってるのか。いや、でもなあ。
 思わず起きがけに叫んでしまったからだろう。目が覚めてしまったらしい三之助が、むにゃむにゃとした舌足らずな声で俺の名を呟いた。

「ん…さく?」

 だから、こういう時に起きるなよ間が悪い!
 真っ赤になっているだろう顔を必死でそらす。今の俺は、端から見りゃ不審人物でしかない。

「なんでもねえ!」

 思いっきり体ごと三之助を避けたからだろう。後ろでもぞもぞと起き出してくる音がした。
 肩を掴まれて、ぐるりとからだが反転する。
 振り返った先に三之助の顔が目の前にあったもんだから、さらに俺の頭は沸騰する。思いの外真剣な瞳に、射貫かれる心地がした。

「作、なんか俺のこと避けてない?」

「いや!べつに、そういうわけじゃねえよ」

「なら逃げないでよ」
 
 なにかあったのかだなんて聞かれても、まさか本人に確かめるようなことはできるはずもなくて、俺は言葉を濁すしかない。
 
「あ、のさ、ほんとうになんでもねえんだ。」

 微妙に目線を逸らしながらごまかそうとしてそう言った瞬間、三之助が囁く。

「ねえ、作、気づいてる?…顔真っ赤だよ」

 こうなると、もう俺に逃げ場はない。強く視線が俺を刺激する。観念して、ぼそぼそと、事実を告げるほかなかった。

「お前に、接吻される夢、見て…」

「それで、意識しちゃったんだ。」

「なっ!」 

 実際口に出してしまうと、さらにそれを意識してしまって、肌が泡立つようなむず痒さを感じる。それを言い当てられてしまって、思わず反応してしまった。
 照れ隠しに突き出した右腕が、絡み取られる。そのままぐいっとひかれてつんのめった先で、三之助がにやっと口角を上げる。

「うん、でも、間違ってないかも」

 唇の触れる感触は、夢にみたあのときとおなじ、少しかさついた柔らかさで。
 ああ、正夢かよ。







昔の人は、夢に人が現れると、その人が自分に会いたがっていると解釈したそうですね。
だったら、夢で接吻されたとしたら、その相手は自分にそうしたがってるって解釈したのかな、と思った次第です。
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