揺れる艶やかな黒髪に、既視感。緩かに曲線を描いて、背中を流れ落ちるそれは、かつての同級生のものにそっくりであった。
 彼とは別れて久しい。同じ学び舎で六年寝食を共にしたかつての友人たちとは、雷蔵ただ一人を除いて、一度も連絡を取っていない。既に別の道を歩み始めた彼らは、味方として再会することは皆無と言って良い。そういうものだと割り切って生きていた。
 鉢屋三郎は、布団をまくり上げ、静かに身を起こした。薄明かりの中、仄めく青白い光のようなそれは、いつまでも部屋を浮遊している。その整った顔立ち、長い睫に凛々しい眉毛。茫洋とした黒い瞳は何処をも見つめてはいない。
 思わず三郎は、彼の名を呼んでいた。

「兵助、」
 
 影は何等の反応も示さない。そこに在りながらも、彼は別世界を見ているようだ。その淵の底のような瞳は、三郎を一瞥だにしない。
 夢だ。三郎はそう思った。
 久々知兵助、それが彼の名であった。成績優秀で後輩からも慕われた彼は、今も立派に忍者として活躍しているだろうと、そう信じていた。それでもこの透き通る体は、間違いなく、久々知兵助その人であった。
 一度睫を瞬かせると、沈むように彼の姿はかき消えた。後に残る、寒々とした静寂。ある春の宵のことだった。
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