「俺なんかの髪、いじって楽しいんですか?」

 緩やかに過ぎていく時間が心地よく馴染む頃、ふと思ったことを口にする。
 背後に立って俺の髪を梳いたり纏めたりしているタカ丸さんが、ふわふわと楽しそうに返事を返す。

「もちろんだよ。俺、兵助くんの髪好きだもの。」

 ふんふん、鼻歌を歌いながら、優しい手つきで髪を掬う。さらさらと彼の長い指に絡む俺の髪は、くせが強くて、手入れも悪くて、どこにも魅力なんてない気がする。
 どうして、俺の髪なんて弄るんだろう。
 そんな俺の思いなんて多分気づいていないんだろう、気の抜けた声が、思考を割って脳へ届く。

「終わったよ、兵助くん」

 ありがとう、という言葉とともに手渡された手鏡。覗き込んだ円の俺の髪は、綺麗に結い上げられている。いつもよりも、髪に艶があるような気がする。こうも変わるものなのかと、思わず感嘆の息が漏れた。

「ねえ」

 カチャリ、と鋏を置く硬質な音が部屋に響く。それが合図となったかのように、ゆるやかな空気が変容した。

「タカ丸…?」

 肩に置かれていた指が、首元へ滑る。艶めいた意図を感じさせる指の動きで、すうっと頬を撫でられる。

「兵助くん、あのね。俺、君の髪が好きだよ。でもね、好きなのは髪だけじゃなくて」

 思わず振り向いた俺の瞳に、見たこともないくらい真剣な瞳の彼の姿が映る。

「君が、好きなんだ」

 結い上げられた髪がはらはらと解けて、俺の肩に降る。くらりと反転する視界、それから、俺の心。





   今結た髪が はらりと解けた いかさま心も 誰そに解けた






閑吟集より引用。
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