現在俺、伊達政宗は右目である小十郎の部屋の前にいた。
 時刻は子の刻…真夜中である。なんてったって一間先は闇だからな。暗闇に目が慣れてなきゃ、伸ばした指の先すら見えねえ。
 では、なぜそんな時刻に俺がここにいるのか?
 決まってるだろ。夜這いだよ、夜・這・い。
 …Sorry,調子に乗った。罰gameの間違いだ、元親との賭けの。俺が負けたから、今からある行為をしてこなくちゃならねえ。あ、ちなみに奴が負けた場合は毛利にやるはずだったんだ。
 襖に手を掛けた。一度深く息を吸い込んで、壊れそうな鼓動を落ち着ける。
 びびってる?Ha,違うなこれは武者震いの間違いだ。あるいは歓喜だ。そういうことにしといてくれ。
 Mission start.俺はすっと襖を引いた。
 薄闇の中央にぼうっと白い布団がうかび上がっていて、俺の体は硬くなった。そうっと身を滑り込ませる。
 俺は今静寂の限界に挑戦しているんだ。僅かな衣擦れの音すら心を苛つかせる。それでも細心の注意を払ってゆっくりと進んで行く。
 じわり、と握った手のひらに汗が滲む。興奮と緊張がmaxに達しそうだ。
 漸くたどり着いた枕元でしゃがみこみ、安らかに寝息を立てる小十郎の顔を覗き込む。瞼は堅く閉ざされていて、ちょっとやそっとじゃ目を覚ましそうもない。
 ごくりと生唾を飲み込む。
 そうっと口を近づけていく。
 三寸ほどに縮まった距離の先で、刹那、カッと小十郎は目を見開いた。

「!?」

 凄い勢いで伸びてきた腕が俺を掴んで引き倒す。
 衝撃で吐き出す息ごとヘッドロックでせき止められる。
 耳に寄せられた唇が、地獄から響くような低音で脅し掛けてきて、本気で怖い。これはやばい。苦しいってlevelじゃねえ!
 そろそろ頭がくらくらしてきて、俺は力の限り叫んだ。

「どこの間者だ」
「あだだだだ!ぎぶ、ぎぶあっぷ!」
「え、政宗様!?」

 あわてたような声とともに首が解放されて、俺は勢いよく咳き込んで倒れ込んだ。
 情けなさと恐怖から布団に顔を押し付けて沈む俺に、小十郎が話しかけてくるが、正直聞いてる余裕がなかった。
 あー、死ぬかと思った。ちょっと泣きそうになった。



 俺が悪かった、こんなこともうしねえから!


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