※やんでれ伊作



 器の中身をくるりと巡らせてみせる。けど、やっぱり雑渡さんの表情は少しも動かない。
 これが毒かもしれないってことは分かっているはずだ。
 だからこそ、一か八か。

「雑渡さん、あなたが頷いてくれなきゃ、僕はこれを飲み干すつもりです」

 口の端は、笑おうとしたのだけども、引きつったように歪んでしまった。
 雑渡さんは僕の傍らに目を遣って呟いた。

「鳥兜、ね。死ぬつもり?」
 
「ええ、あるいは」

 僕の回りに青々と咲く花は、誰もがその名を知っている毒草だ。僕はたったひとつ、問いかけた。 
 
「ねえ、雑渡さん。僕のことが好きですか。」

 その答えはとうに分かりきっていて、でも問わずにはいられなかったのだ。永遠のような一瞬を逃さないように、雑渡さんの瞳を覗き込む。相変わらず底深い闇は揺らぐ気配すらなくて、微笑みの裏で僕はじわじわと焦燥を燻らせた。
 ぱちりと、いちど瞬きをしたあと、ゆっくりと発せられた答え。

「ごめんね、」

 ああ、やっぱり。一文字目が耳に届いた瞬間、僕は器を傾けた。
 軽い絶望の後、激痛。そのはずだったのだ。









「なんてことするんですか!」

「ははは」

 僕の手首をつかみ、無理やり奪い取った器の中身をそのまま流し込んだのだ、雑渡さんは。
 声も出なかった。見開いた瞳の中央に、ふらつく雑渡さんの姿が見えた。思わす抱きつくと、本当に珍しくも体を預けてきた。 
 怒りと情けなさとで僕の頭は沸騰寸前だ。
 
「死んでしまったかもしれないんですよ!?」

「まあ、毒には慣れているし。大丈夫だと思ってね」

「僕だって、毒は効きませんよ!」

「やっぱり」

 普通の人間ならば相当危ない毒ではあるが、薬や毒に耐性のある僕になら、確実に死ぬ量ではない。危ないのに変わりはないのだけれど。
 
「ええ、でも僕はあるいは死んでしまっても良かった」

「…」

「あなたはずるい」

 覚悟はあったのだ。愛してもらえないなら、そのつもりだった。
 でも貴方は僕に死んでほしくはないようだ。たったひとことは言えないくせに、こんな行動取って。
 僕をどうしたいんですか、これ以上は待てないんです。

(やっぱりあなたは愛してるって言ってはくれない!)
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