佐助はその日、久々の休暇でくつろいでいた。
 しかし、彼は気づいてしまったのである。
 上田城に巣くうGという強敵の存在に。





「はああ…久しぶりの休暇だよ。旦那も大将も人使い荒いんだから…」

 佐助は朝日差し込む城の中を歩いていた。久しぶりの休暇に心が踊る。
 とりあえず自室に向かう途中、彼は黒い生き物を発見した。
 かさかさと動くその昆虫、どう見ても、全国のおかんの敵。そう、ゴキブリ、である。


 佐助は素早かった。
 すぐにどこからかはたきを取り出すと、一閃。
 無言即殺。体が四散することもなく、かといって仕留め損ねる訳でもない、絶妙な力加減。Gは潰れて動かなくなった。

「うわあ…嫌なもん見ちゃったよ」

 さっさと亡骸を片付けながら佐助は呟いた。まったく、幸せな気分が台なしである。





 そういえば…。
 一匹のゴキブリをつぶしても、その巣の中には数百匹のゴキブリがいる。想像するだけでおぞましい光景。

「…まあ俺には関係ないか。」

 佐助は忘れることにした。

 久しぶりの休暇だ、今日ぐらい城のことなんて考えなくたっていいはずだ。そう思って、はたと止まる。




 …もう一匹いたあああああ!

 二メートル先に蠢くは敵。
 佐助は持ち前の運動能力をフル稼働し、間合いを詰めると、腕を振る!

「死んでくれジョニー!」

 数時間後、佐助は城の厨房を貸してもらっていた。
 純白の割烹着を装備するその姿にはもう違和感がない。まさにおかん。
 佐助は、ホウ酸団子を作ろうとしていた。手っ取り早く敵を殲滅するにはぴったりだ。

「あーあ、せっかくの休暇だってのに、何やってんだろ…」

 そういいながらも、せっせと持ってきた材料を取り出していく。

 ホウ酸・・・500g
 玉ねぎ・・・大2個
 小麦粉・・・1カップ
 砂糖・・・大さじ2
 牛乳・・・大さじ1

 戦国時代には貴重なものやらないよなってモノまであるけれど、そこはBASARAですから。
 まず、佐助は玉ねぎをすりおろしにかかった。さっさと皮をむき、見事な手つきですばやくすりおろしていく。
 タマネギをすりおろすと、材料全てを混ぜ合わせていく。
 そのあと、できた生地を3センチくらいに丸めた。
 流石おかん。無駄のない手さばき。
 多分ここまで30分かそこらであろう。
 あとは天日干しにして乾燥させたら出来上がりだ。
 少し一息ついてから干しに行こう、と思った佐助は、借りていた道具を片付けだした。

 その時。

「おお、うまそうな団子でござるな!ひとつもらうぞ。」

 背後からこんな声が聞こえた。
 まずい!

「だめええええ旦那ァ!」

 佐助は、とっさに振り返りざまホウ酸団子に伸ばされた幸村の手をはたき落とした。

「いだっ!何をする佐助!」

 幸村が抗議するように佐助を睨む。

「駄目なの!これは毒入りなんだから!」

 はっとして幸村は佐助の顔を見る。佐助は、あわてて付け足した。

「これは虫退治用の団子なの。だから、無害じゃないから食べちゃ駄目、わかった?」

 幸村はほっとしたような顔をして、「そうでござったか」と笑った。

「して、何を退治するのだ?」

「Gキブリ」

 おお!と幸村は叫んだ。

「あれは確かに気持ち悪いでござる。」

「それに不衛生だしね。とにかく、これを台所とか、じめじめしてるところに置いておくから。」

「分かった!間違って食べてしまわぬように注意しておこう!」

「…は?」

「あっ!」

 幸村はあわてて口を覆うが、時既に遅し。
 佐助はゆらりと立ち上がった。ざわりと雰囲気が変わる。

「ねえ旦那、それってまさか…」

 その場に凍りつく幸村。冷や汗がどっと吹き出す。今の幸村の表情は、悪戯がばれてしまった子供のそれよりはるかに蒼白だ。

「まさか厨房に忍び込んで盗み食いしてるとかじゃないよね?」

「ははは…」

 露骨に幸村は視線をそらす。もう、確定だ。
 佐助は大きく息を吸い込んだ。

「もう旦那なにやってんの!いつも俺が団子用意してるんだから、勝手に盗み食いとかしちゃだめでしょ!そうでなくても甘いものとりすぎなんだから!!」

 上田城の厨房に佐助の怒声が響き渡った。
 叱られて涙目になった幸村。必死で弁明しようとして口を開こうとしたが、それは次の佐助の一言によって悲鳴に変わった。

「旦那は一カ月団子抜き!」

「!!!」

 そんな…とがっくり肩を落とす幸村。
 はあ、と荒く一息吐き、ようやく佐助は落ち着いた。そういえば、と、今まで忘れていたホウ酸団子の存在を思い出した。

「じゃあ俺様これを天日干ししなきゃいけないから。」

 まだあああ…とか嘆いている幸村をとりあえず放っておき、佐助は庭に出た。



 適当な場所を探して、ホウ団子を置く。
 まあ後は乾いたころに取りにきて置くだけか。

「さあ、やることやったしゆっくりするか…」

 そう呟いて佐助はそのまま自室に戻ろうとするが。

「む、佐助、団子か!」

「大将おおお!食べちゃ駄目ですよ!」

 背後から伸ばされた信玄の手をはたく。
 やっぱり似た者師弟である。

「これはゴキブリ退治用の毒団子です!」

 信玄も幸村と同じようにそうか!と叫ぶ。

「おやかたさばあああああ!」

 復活したらしい幸村の嬉しそうな叫び声が大気を揺らした。
 振り向けばやっぱり幸村が熱く燃えたぎって炎を揺らめかせながら信玄に特攻を仕掛けて行くところだった。

「ゆきむるあああああああ!」

 信玄も熱き拳でそれに応える。

「おやかたさぶぁ!」
「ゆきむるぁ!」
「おやかたさばあああ!」
「ゆきむるあああああ!」

 何とも暑苦しい殴り合い。
 佐助はげっそりとした表情で深いため息を吐いた。






 結局そのあとも兵士たちの団子誤飲未遂が続いたり殴り合い強制参加させられたりしてして、佐助の休みは潰れてしまったのだった。



 次の日。
 さわやかに幸村が「仕事だぞ!」とやって来たときには、佐助は本気で暇をもらおうとか考えたそうな。 



 佐助の真の強敵は、武田主従なのかもしれない。










Gの呼び名とかはウィキぺディアとか参考にしてます。
ホウ酸団子は適当に調べました。あまり本気にしないでくださいね(笑)

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