「強情だね」
 
 呟いたその言葉に、細い体がびくりと震える。
 目尻一杯に涙をためて、顔を真っ赤にして。それでも、君は抵抗するんだ。
 
「伝七は僕のことが好きなんじゃないの」

 腕で、足で、抵抗の意を見せるのに、ぱくぱくと開く君の口から拒絶の言葉が出てこないのが、その証し。少なくとも僕はそう思ってるけど。
 怖いんだろう。ぐちゃぐちゃにされるんじゃないか。どうせ捨てられるんじゃないか。そういったこと、考えてるんじゃない。もしかしたら、その後のこと考えてるのかも知れないね。
 いいじゃん、そんなの。
 
「狂っちゃいなよ」

 所詮一度の人生だろう?正直になりなよ。
 ちっぽけなその体で、流れに逆らって、それで何になるっていうの。
 そんなもの全部投げ捨てて、露の間の夢に溺れてみない? 

 

(何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ)



×××
閑吟集より。
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