※現代パロ





 どうしよう。
 ざあざあと、絶句する僕の前に、雨粒の壁。
 確かに今朝、降水量90%だって天気予報でやっていた。だから、僕は傘を持って来た。…来たのだけど、誰かに持っていかれたらしい。置き傘だと思われたのだろう。いつも持って来ている折り畳み傘も、今日に限って持ってない。
 既に辺りは真っ暗だ。新野先生の仕事を手伝っているうちに、既に完全下校時間を過ぎていた。
 やっぱり、不運だ。漏れ出るため息。
 もう濡れるのは仕方ない。鞄を頭上に掲げて、ここから100メートルほど先にあるバス停まで、全力疾走しようとする。

「伊作!」

 …幻聴かな?と思った。

「待てって!」

 幻聴ではなかった。
 あわてて振り向くと、留三郎が、呆れたふうに立っていた。何で。
 驚きで固まる僕に、留三郎は苦笑しながら近づいてきた。 

「こんなに土砂降りなのに、傘なしか?風邪引くぞ。」

「はは、傘間違えて持ってかれちゃったみたいで…」

「あー…そりゃ仕方ないな」

 留三郎は、傘立てから抜き出した黒い傘を開いて、ぐいっと僕の左手を引っ張った。

「一緒に入るか!」

「いいの?」

「何言ってんだ。いいにきまってんだろ」

 早く行くぞ、とせかされて、僕はするりと留三郎の右側に入る。男二人だからとっても窮屈で、密着しても、肩が濡れてしまう。少しだけ、申し訳ない気分になりながらも、むしろ僕はどきどきしていた。
 ぱしゃぱしゃと、歩くたびに水が撥ねる。男二人で一つの傘はかなり狭くて、はみ出した右肩が濡れていく。冷たいのだけれど、体の奥はじんと熱い。
 外は土砂降り、辺りは真っ暗。自分は傘がなくて、最悪な日。
 だけど、留三郎とおんなじ傘に入って一緒に帰れる。
 今日の僕は、不運なんかじゃなかった。
 
  




 伊作なら不運が重なって傘がない日もあるだろうと。
 男前留さんとねっとり系女々しい伊作を推奨中…のせいでどっちが左側かわからない。
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