「あなたは本当に酷い人だ」

 触れ合っていた唇が離れると同時に、彼は目を臥せる。ふわりと癖のある髪の毛が揺れる。
 苦しげに吐き出された言葉の意味するところを私は知っているけれど、残念ながら応えてあげることはできない。
 零れた髪をすくい上げ、後ろへ流してやる。頭を優しくなでてやれば、みるみる目許が潤んでいく。
 優しくすればするほど、彼の心は酷く締め付けられ、渦巻く思いは加速する。分かっていながらあえてそうする私は、彼の言う通り酷い大人だ。

「雑渡さん、あなたはちゃんと僕のことを好いてくれていますよね?」

 不安なんです、と彼は零す。
 愛という見えないものに言葉という姿がほしいんだろう。口にしてしまうことは、あまりにもたやすい。だからこそ、私はそれを言えない。

 それでも愛して、だなんて、狡いだろうか。








タイトルはas far as I know様より拝借。  
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