はらはら、散って行く夜桜。その木の根元に蹲りながら、もやもやした思いを抱えて居た。
 朝が来れば、尊敬する先輩たちは、旅立って行く。今日をもって、彼らはこの学園を卒業したのだ。
 私には、どうしても会いたい人がいた。
 かすかな気配を敏感に察知して、私は立ち上がる。多分、あの人だと思った。
 歩いてくるのは、潮江先輩だった。遅くまで会計委員の後輩たちと、別れを惜しんできたのだろうか。すっと道に立ち塞がった私に、呼びかける声は穏やかだ。

「仙蔵のところに行かなくてもいいのか」
 
 先輩はにっと笑った。私は静かに行動を起こした。立花先輩ではない。私が待っていたのは、あなたです。
 どん、と先輩の胸を押した。穴の中へ、突き落とす。
 浅めに掘って置いた穴の中に、とっさのことに対応できなかった潮江先輩のからだが、ぐらりと傾いて吸い込まれて行く。暗いから、穴の存在に気づかなかったのかもしれないけれど。油断していましたね、先輩。 

「おい、なにす…」

 怒声が飛んでくる前に、しゃがみこんで、口付けた。 
 先輩が息を飲むのが分かる。少しだけ、触れるだけ。
「好きでしたよ、潮江先輩。ずっと前から」

 でもあなたは先輩を選んだ。
 だから、最後に貴方の目に映るのが私であるなら、それで良いと思ったのです。
 思った通り、目を見開いた彼の瞳に映っているのは私だけ。そう。もっと焼き付けて。眼球の根底に、私の存在を焦がしつけるように、見つめる。

「さようなら、先輩。覚えていてください。私は先輩が好きでした。」











 どうか忘れないでほしい、それだけを願って、自分の存在を焼き付ける。そんな話。
 もしかして、題意に沿ってない…?


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