彼は突然やってきては、断る間もなくわたしを連れ出す。
“Sunday”
徹くんが海に行きたいっていうから、
わたしの小さな車の助手席に彼を乗せて、片道1時間の道のりを走らせる。
「徹くんさ」
「ん?」
「いつもほんと、急だよね」
「だって名前さんに急に会いたくなって」
「彼女にドタキャンされたのかな?」
「違うって。酷いなあ」
休日に家にいたら、近所に住む彼に見つかってしまった。
ドライブに連れてってなんて、突然のおねだり。
徹くんは可愛いし、お話も面白いし、
わたしも運転は好きだから、まあ別にいいんだけど。
「時間あるなら、あの子たち構ってあげれば?」
「いいよ、興味ないもん」
「…最低」
「知らなかった?」
「ううん、知ってた」
徹くんはいつも違う女の子と一緒にいる。
高校生にして、魔性。そういうの、全然嫌いじゃないけど。
「本命はいないの?」
「いるけど、上手く行かないんだよね」
「え、いい気味」
「名前さんほんと酷い」
「冗談」
恋の悩みがあるなんて意外。
単純な興味で、色々聞きたくなる。
「どうしてなの?彼氏がいるとか」
「もう別れてるみたいなんだけど、全然相手にされなくて」
「えー」
「ていうか、子ども扱いだよね」
「あ、年上なんだ。どんな人なの?」
信号が黄色、赤に変わる。
ブレーキを踏んで車を停めて、助手席のほうを振り向いた瞬間、
徹くんの顔がすぐ近くにあって。
唇に、やわらかい感触。
「…えっ」
「なんでわかんないかな」
困ったように、切なそうに、笑う。
「名前さん、鈍感すぎ」
「…ちょっと、待ってよ」
「待ちくたびれたよ」
「…」
「気付かない振りかとも思ったんだけどな」
「…、だって」
「信号、青だよ」
慌てて前を向いて、車を発進させる。
それってねえ、そういうこと?
冗談かもなんて、思ってみたけど、
本気だって、目が言ってた。
切ないって顔して笑った。
「…どうしてよ」
「理由が要るの?」
「…」
「好きなんだよ、ずっと。もう遠慮しないから」
ハンドルを握るわたしに顔を寄せて、
熱い吐息と、ぞくりとするくらいの甘い声で、
「…覚悟してて」
彼はわたしから何かを奪った。
fin.
(次の恋、してみる?)
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