「武田せんせー、質問いいですか」
「ん?何ですか、名字さん」

わたしは机の上に、持ってきた現代文の教科書を開く。
それから、はさんでおいたメモを、指差す。


『好き。付き合って』


先生は何秒か考えるようにしてから、わたしをなだめるように微笑んだ。


「少し、時間をもらっても?」







“Seventh Heaven”





何度目かの告白も、流されそうになっている。
ああ、なんか癪だな。
天然ぽいくせに。年相応に見えない、可愛らしい童顔のくせに。
ああいうときは大人みたいに振る舞うんだ。

ぐちゃぐちゃの気持ちをどうにもできなくて、珍しく、5限の現代文をさぼる。
先生なんか知らない。でもちょっとは気にしてくれるかなとか、考えたりして。
我ながら呆れるけど、でもいいの、恋愛ってそういうものでしょ。


向かいの棟、屋上の隅。
校舎から見えない日陰に寝転んで、携帯のゲームでひとしきり遊んだあと、
眠くなってちょっと目を閉じた。
すこしして、意識を手放しそうになったとき。



「あまり、困らせないでください」

「…っ先生」


驚いて飛び起きたら、覗き込む先生の顔が目のまえにあった。
あれ。どうしてこんなところにいるの。

「え、授業は?」
「こっちの台詞です」
「…ごめん。でも、授業は?」
「少し抜けてきました。小テストだって言ったでしょう?」
「そうだっけ。でも…どうしてここに?」
「君は、質問が多いですね」

たしなめるみたいに優しく笑う。瞬間、胸がきゅんとする。


「教室から、名字さんの姿が見えたので」
「…それってどういう、」

新しい質問は、人差し指を立てて遮った。
わたしに向き合うようにして、屋上の地面に座りこむ。


「たまには僕からも、質問させてください」
「ええ?なにそれ」
「質問1」
「…。はい」

何となく姿勢を正す。先生、何を言おうとしてるんだろう。


「どうして、僕なんですか?」
「え、」
「君みたいな若くて可憐な女の子には、きっともっと素敵な人が似合いますよ」


…あれ。もしかしてわたし、とうとう振られる?
答えが欲しかったはずなのに、急に逃げ出したいような気持ちになる。


「理由なんて…、上手く言えないよ。でも好きなの」
「…そうですか」


こんなときの模範解答、教えて欲しいな。
もっと上手に伝えられれば、結果は違うかもしれないのに。
先生は頷いて、落ち着いて言葉を続ける。


「では、質問2」
「…うん」


やだな、振られるの。
きっと傷つけないように振ろうとしてくれてるんだろうけど。でも、やだな。


「もし僕と付き合ったとして」
「え?」
「一緒にどこにも行けませんよ。食事も買いものも、映画館も、遊園地も」
「…うん」
「誰にも言えませんよ。少なくても卒業するまでは」
「…、うん」
「それでも、構いませんか?」



あれ?何これ。

こんなの期待、しそうになるよ。
ドキドキが大きくて飛び出しそうな心臓を押さえる。
これってもしかして、クライマックス?




「いいよ。だから…わたしと、付き合ってくれない?」



目を細めて、はにかんだみたいに。
ねえ、心臓が全然知らない音で鳴ってる。
そんな素敵に、笑わないで。



「はい。僕で、よければ」

「…うそ」
「恋人になってください」
「…っ。うん…」





視界がぼやけてよく見えないよ。
勿体ないからはやく、この涙を止めて?
ねえダーリン。

誰にも秘密の、わたしの恋人。





fin.






(天にも昇る心地)









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