及川と私がこうなったのは、自然なことみたいだった。
何の約束も、駆け引きもなかった。
ただ見つめ合って、手をつないで、唇を、体を重ねていた。

まるでお互い惹かれ合うみたいに。










“デイドリーム”






「中3のときの彼女、印象変わったね」
「そう?」
「うん、駅前で見かけて、最初わからなかった」
「ていうかどんな子だっけ。忘れちゃったな」
「うそでしょ」

及川って時々、女の子にすごく薄情。
さすがに驚いている私に、だって、と続けた。

「彼女だから、一緒にいただけだったし」
「…ふうん」

頷いてはみたけれど、腑に落ちなくて首を傾げる。
それは随分と変な理屈だ。




あの頃。
私と及川はとてもよく会うようになった。
簡潔なメールのやり取りで待ち合わせて、
僅かな時間に学校や家の近所なんかで、とりとめのないことを話したり。
付き合ってるわけでも、ないのに。


「じゃあ私は、何だったの」
「さあ。だけど会いたいのはいつも、きみだった」


喉の奥の方が、ぎゅっとなる。

だったら別れれば良かったのに。
なんて。
今となってはあの時の及川が求めていたことなんてわからないし、
あの時私が望んでいたことなんて、すっかり現実味を失っている。
そもそもあの頃の及川は今よりずっと鈍感で、私は今よりずっと繊細だった。



「…今もそう?」

今も同じように、会いたいと願うのだろうか。
ぽろり、零れ落ちた問いかけには答えずに、及川が私の唇をそっと塞いだ。




及川はいつも、彼女と長く続かない。
会える時間がなかったとか、イメージと違うからと振られてしまうとか、
及川がすぐに飽きてしまうとか、理由はいくつだって想像がつく。
きっとそういう関係には向いていないんだろうと思う。
知っている限りでは中3のときのあの子がいちばん長かったのだけれど、
それだってどうやら、ほとんど興味を失った状態で続いていたみたいだし。

その点私たちの関係は気楽だって、思っていたけれど。



最近の及川はどうも様子がおかしくて、
多少は自分が影響してるかもしれないってこと、気付いてる。
でもそんなの今更って、思う。

それよりあの頃、


数年後には忘れてしまうような女の子と無理に一緒にいる時間を、
私にくれたら良かったのに。






なんて。



「…なに笑ってるの?」
「なんでもないよ」





笑っちゃうくらい、有り得ない話。





fin.











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