“すき、きらい、すき”
「…徹、さあ」
「うん?なにー」
「また違う女の子といたでしょ、さっき」
「ああ、友達だよ?」
「友達と手つないで歩くの?」
「まあそういうこともあるよね」
「ないよ」
ひとつだけ年下のわたしの彼。及川徹。
長身に甘い顔立ち。高校バレーの選手としてはちょっとした有名人。
だから、モテないはずがない。とはいえ、
「軽すぎでしょ?」
「そうかなあ」
「反省してよ。わたし、怒ってるんだけど」
「うーん、ごめんね?」
「…心がこもってないけど」
でも正直、慣れちゃってる。
度重なる浮気も、浮気まがいの行動も。
わたしの部屋の窓から見える、いつも違う女の子と一緒の下校風景も。
だけど、
「…嫌いになった?」
この胸を締め付けるような台詞には、まだ、慣れない。
「嫌いじゃないよ。すき」
「俺も。名前だけだよ」
「嘘でしょ」
「ほんと。名前が一番好き」
「…知ってる、けど」
知ってる。
どんなに浮気してもわたしが一番なんだって。
わたしのところに帰ってくるんだって。
だけど、わたしだけじゃどうしてだめなの。
「きらい」
年下の彼は、大人みたいにふっと笑った。
「さっき、すきって言ったのに?」
「…すきだけどきらい。馬鹿。きらい」
目を細めるその感じ、たまらなく好き。
わたしの髪を撫でる慣れた手つきも。
顔に似合わない、ちょっと荒れた指先も。
「すき」
今度は子どもみたいに、たのしそうに笑った。
「それはよかった」
「だから、浮気しないで」
「うん、約束する」
約束なんてなんの保証もないってもちろん知ってる。
でも今日のわたしはとりあえず満足して、
だいすきな彼を抱き締める。
一瞬だけ知らない香りがしたけど、
すぐにだいすきなにおいに包まれた。
fin.
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