きみの目が、髪が、指が、すき。
“画策”
「木兎おそいね」
「どこまで行ったんですかね」
赤葦の部屋、3人で飲んでた。
日本酒をあけたら、木兎がおでん食べたいとか言ってコンビニに出かけた。
けれど妙に帰りが遅い。気を利かせたつもり、なのだろうか。
「ねえ赤葦」
「何ですか」
「今のうちだよ」
「何がですか」
「あたしのこと、襲うなら」
髪をかきあげて、オフショルダーのニットから見える肌、強調する。
「…酔ってるんですか、珍しい」
「酔ってないよ」
「じゃあ、しっかりして下さいよ」
クールな顔のまま、あたしを見る。その目がすきで、たまらない。
「いや。」
「…ちょっと、名前さん」
手をのばして赤葦の髪にふれる。黒くてくせのある、あたしのすきな髪。
シャンプーするみたいに、くしゃくしゃとさわる。
「やめて下さい」
「いや」
「駄々っ子ですか」
赤葦、息を吐いて、それからあたしの腕をつかんだ。
「いい加減、襲いますよ」
強い力でつかまれて、まっすぐに目を見られて、
あたしは急に、どきどきして、ぞくぞくして、いそいで顔を背けた。
「名前さんが言ったんですからね」
黙ったままのあたしの耳元、低い声で呟く。
思わず肩を震わせると、つかまれてた腕が、解放される。
「…わかったら、落ち着いて下さい」
くやしい。顔色ひとつ、変えない。
どうしてあたしだけ、こんなにどきどきしてるの。
「すきなの、赤葦」
赤葦、はっとした顔する。驚いてる。なんかちょっと、優越感。
それから、言いにくそうにして口を開く。
「…俺も、好きです」
「うん。知ってるよ」
あたしが言うと、赤葦は苦笑した。
「そうですか」
「あたしも好き」
「知ってます。…さっき、聞いたので」
静かに、だけど素早い仕草で、あたしの唇を奪う。
熱い唇、やわらかい、舌の感触。
気持ちよくて、もっと欲しくなって、シャツの胸元、ぎゅっとつかむ。
赤葦はあたしを抱き締めるようにして、ゆっくりと床に押し倒した。
「木兎がきたら…、どうするの」
吐息混じりに掠れたあたしの声は、自分でも、誘ってるようにしか聞こえない。
赤葦はなんだか妖艶な感じに顔を歪めた。
「見せればいいんじゃないですか」
「…うそでしょ」
「嘘です。…木兎さんなら、来ませんよ」
「え?」
「気を利かせるように、言いましたから」
今夜近づきたかったのは、
あたしだけじゃなかったってこと。
fin.
(彼とあたしの画策)
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