寂しいのは君だけじゃないよ










“遠くの街で”







『不安なの、どうしても』



彼女はちょっと泣いているみたいだった。
笑って欲しいだけなのに、なぜかいつも、上手くいかない。


電話は苦手だ。
表情や仕草が見えたなら、
その微かな変化にすぐに気付けたなら、
もっと上手く、話せるのに。
泣かせたりなんて、しないのに。

すこし走ろうと思って部屋を出たけど、やっぱり今日は散歩。
ほら、月もこんなに綺麗だし。風はまだ少し、冷たいけど。



都会の夜の風は、どこか無機質な匂いがする。
思い出すのは君が見送ってくれた夜の、馨しい香り。
あれは何かの花の香りだったのかな。それとも、君の?


街灯の下、足を止めたときに、ポケットの中の携帯が震える。




「…はい」
『徹くん?』
「…うん。どうしたの、名前ちゃん」
『あのね…、さっき、泣いたりしてごめんね』
「そんな、いいんだよ。そのために、わざわざ?」



君の声音はさっきと違って、
穏やかな、どこか強さを感じさせるような


『…今夜は月が綺麗だから』


なぜか母性すら感じさせるような、不思議な感じで。


『徹くん、泣いてないかなって思ったの』


そんなことを言うものだから、びっくりして、
でも、妙に彼女らしい気がして、愛しくて。
女の子って、強い。
守ってあげなくちゃなんて、男の幻想なのかもしれないと思う。



「…怖いなあ。一体どこから見てるの」
『ふふ…。ね、泣かないで』
「ごめん。だって、寂しいんだよ」
『わたしも。…ねえ』
「ん?」
『週末、会いに行ってもいいかな』
「え、でも…あんまり一緒にいれないよ」
『いいの。…え、嬉しくない?』
「…嬉しいよ。そんなの、嬉しいにきまってるじゃん!」






週末、君が駅に着いたら。



迎えにいって、抱き締めて、キスをして、それから荷物を持ってあげる。
手を繋いで歩いて、俺の部屋に案内して、君の好きな紅茶をいれてあげる。


顔を見て話して、たくさん触れて、抱き合おう。

会えない時間を埋めるように。
君の不安も俺の寂しさも、すっかりなくなってしまうまで。




fin.









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