“3/14”




「…及川、あたしには?」
「え?」


休み時間、及川を呼び止める。
クラスの女の子たちに渡してた、お洒落な包装のクッキー。
あたしまだ、もらってない。


「名前ちゃんにはほら、体で返す約束だから」
「物がいいって、言ったじゃん」
「もー。はいはい、あるよ」
「…ちっちゃ。なにこれ」
「まずはアリガトウでしょ」
「開けてもいい?」
「…。こっそりね」


マッチ箱くらいの小さな箱をそっと開ける。

小さな石の付いた、金色のピアスが一対。
驚いて及川の顔を見ると、なんだか複雑な顔をして。


「物がいいって言うから」
「え、それでこんな?いいの?」
「…」
「もしかして、…照れてる?」
「まあ、うん。っていうかさ…、どうなの」

複雑な表情の意味にようやく気が付く。
あたしも及川も、こういうの全然、慣れてない。



「すごく気に入ったよ。…ありがとう。ほんとにうれしい」


素直に伝えると、及川がほっとした顔をする。
あたしはなんだかそれが、妙にかわいく思えてしまって。



だれにでも良い加減なこと言うくせに、
いつもあたしのことちょっと特別扱いしてくれる、

彼のこと、意識しだすようになる。






fin.



(そんな顔、あたしにだけでしょ)









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