“サディスティックベイビー”






「…鉄、痛い」


壁に押さえつけられた手首が痛い。

鉄はわたしの訴えに口の端を上げて笑ってみせて、
だけどそのままでキスを続けた。


付き合ってもう1年以上になるのに、
別にわたしが抵抗するわけでもないのに、
鉄はまるで奪うように、
ときには強引に犯すようにわたしに触れる。



「…っはあ」
「もう息あがってんの」

呼吸ができないほどの濃厚な口付けに、
酸欠でくらくらしながら鉄の顔を睨む。
意地悪そうな瞳、いつもよりもっと鋭くさせちゃって。
口元にはさっきの笑みをうかべて。


「まだ全然、これからだけど?」


熱い息がかかるくらいの至近距離。
どきりとして顔を背けると、
今度は首筋に噛み付くようなキスをした。

「っ痛、」

ぺろりと舌を出してみせて。
サディスティック。
でも、たまらなくセクシー。

とろけそうなくらい、甘い。



「鉄、」
「なに、名前」
「…なんでも、ないよ」
「ふーん」


言わなくたって伝わってる。
鉄の瞳の温度、また少し変わった。

お互いにすこし荒くなる息づかいとか、
いつの間にか外れてるシャツのボタンとか、
もう恥ずかしいとも思わなくなって、
あなたのことがもっと欲しいって大胆な気持ち。


「言えばいいのに」
「…」
「やめる?」
「…やめないで」




どうか、1秒だって焦らさないで。


その目でもっとわたしを見て。
ねえもっと、わたしに触れて。




fin.









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