「旭っ」
「ぐっ!」

夜道、脇腹に強い衝撃を受ける。
そして俺の腹部に巻き付いたままの、犯人。


「…痛いよ、名前さん」







“ピーコック”





「ね、びっくりした?」
「うん…刺されたかと」
「ふふー」


俺を襲撃したのはもちろん通り魔じゃなくて、幼なじみの名前さん。
街灯の下、ふにゃりと笑ってみせる。

「お酒飲んでる?」
「えーわかる?帰りにちょっとだけー」


派手な服を着ているけれど、彼女は5つ上の社会人。
先の奇行が完全に酒によるものだとは言えないが、
いつもはもう少しだけしゃんとしているのだ。


「ね、一緒に帰ろ?」
「うん、もちろん」

名前さんの家はうちのごく近所だし、
言うまでもなく彼女を一人で歩かせるのは心配だ。
俺の返事を聞いて、嬉しそうに腕に巻きついてくる名前さん。
…心配だ。一体誰といたんだろう。

「…一緒の人に迷惑かけなかった?」
「ん?大丈夫!大人しくしてたし」
「…そっか」
「旭は部活がえり?」
「あ、うん」
「遅くまで、がんばるねえ」


聞けない。
でも、この時間に一人で帰ってくるってことは。
少なくとも最悪の事態にはなっていない。と思いたい。


名前さんは俺の心配をよそに、ご機嫌だ。
腕を組んだ状態のまま、慣れた手つきで煙草に火を点ける。
長い爪。あ、きれいな模様。似合ってる。


「…ん、吸う?」

じっと見ていたら煙草を勧められる。

「いや、未成年だし」
「大丈夫。体は大人だもん」
「だめだって」
「もー。真面目」




大人になったって変わらない。
自由気ままで奔放で。


だけど俺の知らない誰かの存在とか、
煙草を吸う慣れた手つきとか、
自分でやったんじゃない凝った模様のネイルとかが、

なんとなくだけど、
確実に距離を感じさせて。



体が彼女より大きくなっても、
5歳の差が昔より小さく感じられるようになっても、
俺はまだ子供で。



俺はいつも彼女より子供で。






「…ねえ、旭?」
「ん、なに?」





「はやく大人になってよね」

「…名前さん、」






「一緒に飲みにいこう」



俺の気持ちなんて知る由もない名前さん。
気持ち良さそうに煙草の煙を吐き出して、にっこりと笑う。



まあ、
今はこのままでいいか。なんて。





「うん。楽しみにしてる」
「わたしもー!」








二人の家まではもう少し。
名前さんがくっついている左側が、熱いけど心地よくて。


このままもっと遠くまで行けたらと、密かに願った。




fin.










(まってるからね)









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